夢にむかってがむしゃらだったぼく

そして二十歳の頃、決定的な出来事が起こった。

いまとなっては恥ずかしい話でもあるのだが、ぼくは二十歳まで俳優を目指していた。幼い頃からドラマや映画が好きだったことに加え、「周囲の人間を見返してやりたい」という想いが強かったぼくは、テレビの向こう側の人間になることで、自分自身の存在意義が初めて確立されると思っていたのだ。高校生になると芸能情報誌を眺めては気になるオーディション情報を見つけ、必死に履歴書を作成し、応募していた。

そのかいあって、高校を卒業すると同時に、小さな芸能プロダクションの所属オーディションに合格し、レッスン生になることができた。芸能界を目指すことに反対していた祖母も、ぼくが合格したことを知ると、「神様のおかげだね」とうれしそうに笑ってくれた。

そのままデビューできると信じていたぼくは、大学に進学する友人たちとは真逆の道を選び、レッスンのたびに東京へ通うという不安定な生活を送っていた。ドラマや映画のオーディションがいつ入ってくるかわからないため、身軽でいなければいけない。結果としてぼくは、パチプロ崩れのようなことをして、日銭を稼いでいた。そんなぼくのことを嘆く大人が大勢いたけれど、すぐにデビューするから見てろよ、という気持ちだけが、ぼくを前へと押し進めてくれていた。

さまざまなオーディションを受け続ける日々だった Photo by iStock

事務所経由でさまざまなオーディションにチャレンジした。人気バラエティ番組の再現VTRから、大ヒットした映画の生徒役。でも、よくて二次審査止まり。書類の段階で落とされることも珍しくなかった。そのたびに社長からは「また次がんばろうね」と励まされたが、次第に心はすり減っていった。

事務所に入って2年。結局、なにひとつ結果は残せなかった。事務所で受けられるレッスンには真面目に参加していたし、それ以外にも、自分で見つけたボイストレーニングやダンスレッスン、お芝居教室にも通った。空いている時間があれば、好きな俳優が出ているドラマや映画を繰り返し見て、彼らの台詞回しを真似し、少しでも演技のコツを盗もうと苦心した。整形手術を考えたこともある。ずっとコンプレックスだった地味な顔を変えれば、きっとオーディションウケもよくなるはず。でも、そこまでするお金がなかったので、諦めた。

そして、高校生の頃に懐疑心を抱いてしまった宗教にも、あらためて真剣に取り組んだ。神様を信じれば、どんな夢でも叶えられる。祖母がしつこいくらいに口にしていた言葉を胸に刻み、神様に祈りを捧げた。いま思えば、藁にもすがりたかったのだろう。デビューできるのならば、夢を叶えられるのならば、どんなことだってしてやる。そんな2年間だった。