ミュージカルの歌は、
それだけで素晴らしい。
私にできるのは、楽しむことだけ。

昨年末の紅白で、俳優の中村倫也さんとともにディズニー実写映画「アラジン」のテーマ「A Whole New World」を歌っていた彼女のことを、覚えている人も多いだろう。紅白出場当時、彼女はまだ20歳。佐賀県から上京して、わずか3年目の出来事だった。ミュージカル界に突如現れたシンデレラガール。そんな彼女のポリシーは、うまく歌うことよりも、まず、楽しむこと――。全身で、溢れる感情を表現すること――。たくさんの作品に背中を押され、たくさんの出会いに導かれ、ミュージカルという自分が無心になれる場所へと辿り着いた。

撮影/山本倫子
木下晴香 きのした・はるか
1999年2月5日生まれ。佐賀県鳥栖市出身。2015年12月に「全日本歌唱王選手権 歌唱王」の決勝に進出。17年にオーディションでミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(小池修一郎演出)のジュリエット役でデビュー。18年ミュージカル「モーツァルト!」(小池修一郎演出)にコンスタンツェ役で出演。19年、ミュージカル「ファントム」(城田優演出)にクリスティーヌ役で出演。同年、ディズニー実写映画「アラジン」でヒロイン・ジャスミンの吹き替えを担当。テーマ曲「A Whole New World」を19年の紅白歌合戦で中村倫也とともに披露した。

歌とダンスが自分に力を

初めてミュージカルを観たのは、2歳の時だ。母に連れられて、佐賀県の鳥栖市から電車を乗り継ぎ、博多にあるキャナルシティ劇場へ向かった。上演されていたのは、劇団四季の「ライオンキング」。小さな彼女には、もちろん座席などない。母の膝の上で、2時間40分の間、食い入るように舞台を見つめていた。

「正直、その時のことは、私の記憶には残っていないんです。ただ、母の当時の日記に、『晴香が喜んで、“また観たい”と言った』と書いてあった。以来、福岡にきた劇団四季の舞台は、毎回観に行くようになりました。大きくなって、母の日記を見せてもらった時は、そんなに小さい頃から、ミュージカルに対して何か感じるものがあったのかなぁ、とちょっと不思議な気分でした」

誰か新しい人と出会うたびに、自分の名前もはっきりと言えぬまま、モジモジしながら母の後ろに隠れてしまうほど恥ずかしがり屋だった幼稚園時代を経て、小学校2年生の時、また新たなミュージカルとの出会いを経験した。そこから、“ステージに立つ”ことに興味を持つようになる。

「地元に、キッズミュージカルの団体があって、小2の時、公演を観に行ったんです。そうしたら、『私も来年からやる!』と帰り道で宣言していました(笑)。定期的にクラス分けのオーディションがあるんですが、その度に、『いいクラスに入りたい!』と、一人勝手に燃えているような、負けず嫌いの子供でした(笑)。できないことがあると、俄然やる気が起きるんです。『悔しい』という気持ちがバネになって、必死で課題をこなすうちに、たまにいい役をいただけたりして。最初に人前に立って拍手をいただけたときのことは、今も鮮明に覚えています。私は引っ込み思案だけれど、歌とダンスはそんな自分に力をくれるんだなって

小3から中2までの6年間は、その団体で歌とダンスのレッスンを受け、中3になると、全国ツアーのあるミュージカルのオーディションを受けるようになった。とはいえ当時は、ミュージカルの世界に憧れてはいても、「仕事にしたい!」とまでは思っていなかった。ところが、高校に進学して間もなく、ミュージカルに自分の人生を賭けたくなるような作品と出会うことに。