伝説の料理店「京味」が閉店…究極の店が日本に遺したもの

料理人・西健一郎の記憶

一時代の終わり

また、ひとつ「時代」が逝ってしまった――。

西新橋にあった京料理店「京味」が2019年の年末を最後に閉店したのだ。実はこの名店の店仕舞いは、その約5ヶ月前、主人である料理人・西健一郎が天国に旅立ったことが深く関わっている。

西健一郎氏

西は昭和42年の開店以来、昭和、平成、令和と三つの時代をまたいで京味のカウンターに立ち続けてきた。そして、時の政治家、芸術家、文化人の胃袋を虜にしてきた。例えば、志賀直哉、有吉佐和子、梅原龍三郎…。店内に設(しつら)えられた提灯には、そうした贔屓筋の名前がずらりと刻まれている。

あの提灯を見ることはもう、できない。この喪失感はフレンチの巨匠・ジョエル・ロブションが亡くなった時にも重なる。共通するのは、「もう、二度と、このような料理人は現れない」という確信だ。

京味をこよなく愛した人々は今、何を思うのか。作詞家・秋元康は、生意気と思われるかもしれないが、と前置きをした上で、「京味に行くことは、僕の生活の一部であり、人生そのものだった」と振り返る。

 

「そろそろ松茸が食べたいから予約を入れよう、ではないんです。仕事の予定に関係なく、一年に数回、京味で食事をすることが前提で、秘書がスケジュールを組んでいました。お店に行く日が近づいてきて、明日はいよいよ京味で食事だと思うと幾つになっても心踊ったものです」