クルーズ船のコロナウイルスは欧州から? 遺伝子解析で「正体」判明

ここまで分かったコロナウイルスの真実
山根 一眞 プロフィール

根路銘 GISAIDのリアルタイムに近い情報の公開と共有が目指すところがそれでしょう。

山根 もし、多くのコロナウイルスに対応できるワクチンが実現すれば、クルーズ船の乗客はワクチン接種者に限る、という措置もとれますね。

根路銘 まさに、私たちウイルス感染症の研究者に課せられた大きな課題ですが、そういう議論が出ていないのは残念です。

山根 GISAIDの新型コロナウイルスの進化系統図は、3月に入って初めて明らかになったものですか?

根路銘 違います。この系統図はGISAIDが日々更新をしており、インフルエンザウイルスの専門家たちは日々チェックをしています。

これには「2020-03-01_0400 UTC」と記してあります。日本時間の3月1日13時に更新されたものとわかりますが、このデータは連日、新たなデータが書き加えられているんです。

もっとも、この系統樹を見たからといって、効果的な対策が可能というわけではない。しかし、少なくともそのコロナがどこから来たのかという「ウイルスの旅路」は読み取れます。船内に閉じ込められたままだった乗客の皆さんも、ウイルスの旅路の片鱗がわかれば少しは納得されるでしょう。

進化という「遺伝子の複製間違い」

山根 それにしても、なぜ同じ中国発の新型コロナウイルスなのに国や地域で違いがあるんですか?

 

根路銘 ウイルスの増殖とは、自分と同じ遺伝子を持ったものを複製することですが、その複製を間違うからです。

コロナウイルスは、もともと変異しやすいRNA(リボ核酸)という遺伝子を持つタイプのウイルスです。

コロナウイルス新型コロナウイルスの模型(製作:山根一眞) 拡大画像表示

ヒトの肺胞の細胞にとりつくと、外殻(エンベロープ)を脱ぎ捨てて、RNA(遺伝子、リボ核酸)という自分の設計図をヒトの肺胞の中で働かせる。もちろん、それに至るまでの初期の旅路では、上気道という鼻や気管支といった細胞への感染も行ってのことですが。

子孫を増やすために自分は死ぬが、設計図だけは送り込むわけです。

そして、人の細胞の中で材料をかき集めて子孫である複製をたくさん作らせます。こうして誕生した子孫が細胞からたくさん外に出ていくんです。外に出る時には、ちゃっかりと細胞の膜をちょうだいし自分の殻に利用して。

そうして誕生した子孫たちには親と同じRNAも入っていますが、その複製を作る時にちょっと間違える。その間違いの部分を調べることで、どこで増えたものかという「ウイルスの旅路」がわかるんです。

山根 コロナウイルスの大きさを、私がテニスボールで作った模型とすると、人の大きさは頭が岩手県の花巻市、足の先は福岡市になる。それほど小さなウイルスが、そんな精密な作業をしているとは驚くばかりです。

根路銘 ウイルスはとてつもない仕事をしている。一方、大事なことは、この複製の間違いがウイルスの「進化」というものだということです。その「進化」によって、病毒性が強いものが出たり、感染性が低いものになったりする。

それはね、地球に誕生した最初の微少生命体が、進化という「遺伝子の複製間違い」を重ねて数千万種という現在の生物世界を築き上げてきた、生物の地球進化史と同じことをしているのだということです。

山根 非常に興味深いです。コロナウイルスとはいえ、その拡散は「進化」というダイナミズムと裏腹なんですね。

ところで、GISAIDのウイルス系統樹ですが、これは親から生まれたちょっと顔が違う子孫たちの「つながり」を表現している?

根路銘 この図はウイルス遺伝子の型を見てつながりを描いたものでとても役に立ちますが、ウイルスだけを見ていてはいけない。

ウイルスによる感染症は「ウイルスの旅路」を見抜かないといけない!

大きなウイルス感染症を抑え込むには「ウイルスの旅路とその顔色」を明らかにすることが第一なんです。