日本が生んだ万能の天才「空海」の哲学を、今考えるということ

空海思想の核心「即身成仏思想」とは
竹村 牧男 プロフィール
 

しかし、それらのなかで、特に空海の思想に関して、まとまったかたちでわかりやすく説明したものは、けっして多くない

たしかに訳注や現代語訳等は、それぞれのテキストの思想をひととおり解説してくれているが、それらが空海の思想全体のなかで、どのような位置を占め、相互にどのような関係にあるのか、その全体像の見取り図まで示してくれているものは、案外、少ないと思う。あれほどまでに仏教界の知の巨人である空海の、特にその思想についてのまとまった適切な解説書は、必ずしも多くはない。

そこで私は、特に密教に関しては浅学菲才の身であることをも顧みず、空海の思想、哲学の比較的わかりやすい本を作りたいと思うようになった

密教の核心は「即身成仏」にある

それにしても空海の思想の全体は、やはり広大なもので、そのすべてを綿密に学ぶことはなかなかに困難である。

では、そのもっとも核心となる部分は何なのであろうか。空海の思想全体を見渡すためにも、まずはその中核的なところを把握すべきである。空海の密教の核心は、一体どこにあるのであろうか。

空海は、自ら受け継いだ恵果の密教について、即身成仏の道、すなわちこの世のうちに仏と成ることを実現できる道であることを伝えている。空海の『広付法伝』に引かれる呉慇(ごいん〜806〜)纂「大唐神都青龍寺東塔院灌頂国師恵果阿闍梨行状」には、「常に門人に謂(かた)て曰く、金剛界大悲胎蔵両部の大教(密教)は諸仏の秘蔵、即身成仏の路なり。普(あまね)く願わくは法界(世界)に流伝して有情を度脱(救済)せむ」(『定本弘法大師全集』高野山大学密教文化研究所、1991〜97年〈以下、定本〉、第1巻、111頁)とあるようである。

さらにその後の多くの著作のなかでしばしば即身成仏思想を強調している。

とすれば、即身成仏思想の強調は空海の生涯を通じての重要な課題であったと見ることができよう。したがって、我々は空海の密教を学び了解していこうとするとき、特に即身成仏が意味するものを深く尋ねていくことは、その1つの有効な方法であるということになると思われる。

そこで本書において、私は何よりも『即身成仏義』の全容を解明することを通じて、空海の真言密教の哲学・思想の中心的な部分を明らかにしたいと考えた。短章でもある『即身成仏義』の内容は、多くの人が思っている以上に豊かで深いものがある。そのことを、ぜひ多くの人びとに知ってほしいと思うのである。