日本が生んだ万能の天才「空海」の哲学を、今考えるということ

空海思想の核心「即身成仏思想」とは
竹村 牧男 プロフィール
 

一例に理論物理学でノーベル賞を受賞した湯川秀樹は、「長い日本の歴史の中でも、空海というのは、ちょっと比較する人がいないくらいの万能的な天才ですね。そこまでは最近、再認識されだしたが、私はもっと大きく、世界的なスケールで見ましても、上位にランクされるべき万能の天才だと思うのです」と言い、「世界的に見ましても、アリストテレスとかレオナルド・ダ・ヴィンチとかいうような人と比べて、むしろ空海のほうが幅広い。また当時までの日本の思想・文化の発達状況を見ますと、思想・芸術、それに学問・技術の分野で時流に抜きんでていた。突然変異的なケースですね」と述べている(『日本史探訪 第2集』、角川書店、1971年)。

湯川秀樹(photo by gettyimages)

今、なぜ空海の哲学なのか

空海はこれほどまでに日本文化に大きな影響を与え、多くの民衆に今も慕われつづけている。と同時に、空海の密教における独特の言語哲学や曼荼羅思想は、現代の最先端の哲学ともじゅうぶん対話しうる深みを湛えている

空海の言語哲学によれば、言語はその一義的な意味の体系を解消して、事物の多義性に呼応したシステムとして了解・運用されるべきであるという。ここには、近代合理主義を超克する一つの存外、有力な道としての可能性がある。曼荼羅思想は、共生ということの究極的なモデルを提供しうるものでもある。あるいは自己を曼荼羅そのものと洞察する視点は、自我の解体と自己の構築をもたらすであろう。

まさに現代の最大の問題である他者の問題への独創的な視点を秘めている。こうして、空海の思想は、現代の境位においてこそ、深く顧みられるべきものなのである

ゆえに我々は我々の偉大な先人、空海の思想をもっと研究し究明すべきである

そのような空海については、これまでたしかにさまざまな優れた本も刊行されてきた。伝記では、渡辺照宏・宮坂宥勝の『沙門空海』や、司馬遼太郎の『空海の風景』などがある。

空海の著作の解説で、人びとが手に取りやすいものとしては、加藤精一(角川ソフィア文庫)、宮坂宥勝(ちくま学芸文庫)、福田亮成(ノンブル社)、松長有慶(春秋社)らの、それぞれ一連の著作がある。新書にも、空海の文芸に着目したもの(篠原資明・岩波新書)や、テキストの真偽に大胆な新説を披瀝したもの(竹内信夫・ちくま新書)などがある。