人間の顔はなぜ「毛」で覆われていないのか? その深すぎる理由

実はこんなに「合理的」だった
マーク チャンギージー プロフィール

また、色によるシグナルは、筋肉を使った表現よりも直接的に、動物の生理的状態を他者に伝える。「俺はお前に腹を立てているだけではない。この真っ赤な顔が見えるか? これは、俺が生理的に良好な状態にあって、体にたっぷり酸素が行き渡っていて、息など切れておらず、戦闘準備完了ということだ」という具合に。

血液の酸素飽和度はごまかしようがない。少なくとも、長くごまかし続けることはできない。ほかの色によるシグナルについても同じかもしれない。ただ赤面するのでさえ、良好な生理的状態になければ無理で、健康な肌が必要なことは言うまでもない。

筋肉を使った表現と比べて、色によるシグナルにはまだ重要な利点がある。もともと操作しづらいのだ。たいていの筋肉はその性質上、当の動物が意識的に操作しなくてはならない。ところが、血液の酸素飽和度には、体のあらゆる細胞を生かしておくといった、もっと重大な責任がある。

したがって、心臓血管の根本的な特徴を、当の動物の意志作用から切り離しておく(いわば、操縦室には立ち入り厳禁)というのは、進化上の賢い選択だ。その結果の一つとして、色によるシグナルは、動物が寝ていたり無意識だったりするときにでさえ、送ることができる。とくに、呼吸困難、それも赤ん坊が呼吸困難になったときがそうだ。

 

「ごまかせない」ことの進化的利点

もっと一般的には、色によるシグナルから、動物がほんとうにどう感じているのかがわかる。これは、互恵的利他主義の進化にとっては、おそらく根本的なことだろう。

互恵的利他主義とは、進化生物学者のジョージ・ウィリアムズとロバート・トリヴァーズが打ち出した概念だ。利他的なコミュニティに暮らすのは、個々の生き物にとって有益だが、それには仲間をだしにしたり餌食にしたりする「裏切り者」を許さないことが条件になる。裏切り者がはびこると、コミュニティはほどなく彼らの天下になる。