自然を敬い、共存し、
誰もが幸せな仕組みを作る

鈴木菜央 社会起業家

小学校の低学年で初めて観た『風の谷のナウシカ』は、あまりに衝撃的すぎて呆然とした記憶がある。描かれるのは人類が発展だけに価値を見出し、その結果、戦争という毒を撒き散らして、自ら滅びの道を選んだ救いのない世界。人間は自然からいろんなギフトをもらって、生かされている存在に過ぎないのに、思い上がり自然を征服する対象として見たために大きなしっぺ返しを食らう。それって今まさに僕らがたどっている道だよなと改めて考えさせられる。

都会からはじまる新しい生き方のデザイン』は、欧米で巻き起っている、自然とつながった持続可能な暮らしをデザインするムーブメント“パーマカルチャー”という考え方を知るのに最適な一冊。持ち寄りご飯会や生ごみを利用したベランダで出来る堆肥づくり、ちょっとしたDIYや修理・修繕など、簡単なことを無理せず続けていくうちに、自然と複数のSDGs項目にリーチする。

太陽、雨、風などの自然の資源、建物や地形などの資源、生き物という資源、人々の記憶や経験といった資源を活かしながら、周囲のみんなが幸せな仕組みを作る僕たちの活動コンセプト「関係性のデザイン」ともリンクする内容。「お金を稼ぐ」「経済成長する」という目標の達成だけを目指す社会から、複数の目標をゆるやかに達成していって、関係者みんながハッピーに生きていける社会に変わっていくヒントがこの本では多く提示されている。

風の谷のナウシカ
大戦争で著しく衰退した文明社会。有害なガスと巨大生物に追いやられ細々と暮らす人類にあって、自然に寄り添い共に生きる少女ナウシカを描く。宮崎駿監督作。ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン/¥6800(BD)

都会からはじまる新しい生き方のデザイン
ソーヤー海/監修 持続可能な生活・文化・社会のシステムをデザインする“パーマカルャー”を都会で行う筆者が、その理念や実例をわかりやすく紹介。より豊かに楽しく生きていくヒントがたくさん。エムエム・ブックス/¥1800

鈴木菜央 すずき・なお
1976年生まれ。編集長を務めるウェブマガジン「greenz.jp」では、よりよい社会をつくるために世界各地の事例を紹介するほか、書籍やイベントのプロデュースも行う。著書に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』(星海社新書)がある。

幸せの裏にある犠牲からも、
目を背けない

木村綾子 作家、〈本屋B&B〉スタッフ

すべて写真になる日まで』は、ダムの底に沈む予定の故郷をつぶさに撮影しつづけた増山たづ子さんによる29年間の記録。社会を発展させるために人は前を向いて進んでいくけど、確実にその中で失われるものがあると視覚で実感させられる。

人って自分のことに対してはすごく繊細で敏感なのに、自分の幸せの裏にある犠牲には気が付きにくかったり、見えているのに焦点をずらして知らないふりができてしまう。それって怖いことだなって改めて思う。10万カットという膨大な数から厳選された朗らかな写真、たづ子さんが残した著作やメモから抜粋し添えられた言葉の数々、そのすべてに血肉が通っていて、私にとって縁もゆかりもない土地なのに、ページをめくっていくほど、自分の大切な景色とシンクロする不思議な体験ができる。

クィア・アイ in Japan!』は、どのエピソードもことごとく幸せな気分に浸らせてくれる特別な作品。派手よりは地味、少数よりは多数、と閉じた思考になりがちな気質の日本人が、アメリカからやって来たアッパーなゲイの5人組“ファブ5”の自由な発想によって、どんどん開かれていく様は見ていて痛快。挨拶の握手が次第にハグになったり、地味な服装一辺倒だった人が色を取り入れた途端に表情まで華やいだり、無理やりではなく自然とそうなるのがまたいい。人種や性別、国籍を超えて人と人がつながる理想の形がここにはある。

増山たづ子 すべて写真になる日まで
増山たづ子/写真、小原真史・野部博子/編 生まれ故郷がダムの底に沈む。そんな悲しい計画が本格化すると知った増山たづ子は、60歳になってはじめて手にしたカメラで、岐阜県徳山村の人々と風景を29年間撮影し続けた。IZU PHOTO MUSEUM/¥3300

クィア・アイ in Japan!
ネットフリックスの人気リアリティ・ショーがついに日本上陸。料理や美容、ファッションなど、その道を極めるゲイ5人組“ファブ5”が悩める依頼人を華麗に導く。 www.netflix.com/jp/title/81075744

木村綾子 きむら・あやこ
下北沢の書店〈B&B〉を拠点に、ブックディレクション、イベントプランニングなど、本に関わる仕事を幅広く行う。著書に『いまさら入門 太宰治』(講談社+α文庫)など。全国の地方新聞でコラム「太宰治 時代を超えて」を連載中。