本や映画には、SDGsのさまざまな問題を知り、楽しく読み観て考えるための、多くのヒントがあります。それぞれにとって学びとなった大切な一冊一作を、小説家、学者、ラッパーなど5人に聞きました。

自分と異なる人たちが、
未来に豊かさをもたらしてくれる

温又柔 小説家

この国に増えつつある、発言権がなく可視化されていない人たちの声が、どうにか普通に耳に入るような状況があればいい。『よい移民』の舞台はイギリスですが、私にとっては切実に感じられ、仲間が書いたような感覚さえ覚えました。移民というだけで、良い悪いと誰かに判断され、良い移民でいなければならないのはなぜか。タイトルからして非常にシニカルで、いったい誰にとっての良い悪いなのかを突きつけてきます。本のなかでも多文化的な絵本や資料を積極的に教育に取り入れた教師が論じた「そんなのだめだよ! お話は白人についてじゃないと」は心に刺さりました。

なぜなら私自身、ある時期までなぜか、本の主人公は日本人でなければいけないと思っていた。自分が温又柔という名前なのに主人公には日本人の名前を付け、自身のリアリティよりホスト社会の標準に合わせていた。その抑圧とは何かと考えた時、私もこんな先生と出会えていたら、もっと早く楽になれたかもしれないとも思いました。異なる人たちが隣人であることや、日本には日本人が思う以上に豊かな要素が紛れはじめていることを、私自身も強調したい。外国にルーツを持つ子どもが日本の学校に馴染めず、また、母国の言葉さえ奪われてしまう現実も多くあるのです。

12か月の未来図』は、エリート高校でフランス文学を教えていた教師が、ひょんなことから郊外の中学に派遣され、不良校の生徒たちに学ぶ喜びを伝えるために奮闘する物語。エリート校の生徒はほとんどが白人、転任先の中学の生徒はまるで違う。勉強はいいから早く仕事をという親がいたり、移民、難民も含めて、問題児に何を教えても無駄であると、彼らは大人から期待されない。そんな子どもたちの可能性を、この先生だけは信じてあげる。結果は何十年後に出るかは分からないけれど、今の日本にもそういう大人が増えて欲しいと思う。どんな子どもにも自分は存在しているだけで価値があると思わせてくれる大人が必要ですから。今、親の収入が少なくて言語教育が受けられないなどの問題が、移民間ではさらに露骨に現れています。格差が広がり、持つものと持たざるものとで分断が広がっていく危機を、持つものの側が徳のある精神で考える必要があるのではないでしょうか。教育も環境も、10年後、20年後を見据えて。子どもたちの教育の機会を尊重することは、この社会で生きる一人ひとりが相互に尊重し合える基盤をつくることにつながるはずです。

よい移民 現代イギリスを生きる21人の物語
ニケシュ・シュクラ/編、栢木清吾/訳 俳優や詩人、ジャーナリストなど、イギリスで暮らす「移民」とカテゴライズされる21人が執筆。なぜ「良い移民」でなければならないのか、人種も境遇もさまざまな彼らの、真の声を聞く。創元社/¥2400

12か月の未来図
問題児とベテラン教師との交流や成長を通して、フランスで大きな社会問題となっている、移民の子供たちの学力低下、教育の不平等について考える。オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル監督作。アルバトロス/¥3800(DVD)

温又柔 おん・ゆうじゅう
1980年台湾・台北市生まれ。3歳から日本で暮らす。2009年「好去好来歌」ですばる文学賞佳作を受賞しデビュー。著書に『台湾生まれ 日本語育ち』『真ん中の子どもたち』、近著に『「国語」から旅立って』。Twitter ID:Wen Yuji