妻を亡くし、広すぎる我が家を売って「寝たきり」になった男性の後悔

最後まで自宅を売ってはいけない
週刊現代 プロフィール

もとの自宅から電車で30分の距離であっても、幸雄さんにとって新しい町は違和感の塊。以前の暮らしでは体に染みついていた『土地勘』が通用しない。外に出るのが億劫になってきた幸雄さんは、食事すらまともに摂らなくなったという。

「心配になって父のマンションに行くと、明らかに様子がおかしいんです。何を問いかけてもまともに応答せず、手が痙攣していました。これはただ事ではないと、病院に連れていきました。不摂生が祟り、くも膜下出血を起こしていたんです。

父はそのまま入院し、寝たきり生活に。病院のベッドでも『マンションに引っ越したことで、信子との思い出も全部捨ててしまった』と繰り返し後悔を口にしていました。それからわずか2ヵ月後、父は坂から転げ落ちるように衰弱して死んでいきました」

本当のひとりぼっち

人生にはカネで買えないものがある。住み慣れた場所では当たり前のようにあった「ツーカー」の人間関係や安心感、そして家族との思い出。普段は気が付かないが、それこそが財産だったのだ。

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年を取ってからマンション暮らしを始めたせいで新たな対人ストレスを抱え、引き籠もりとなって体を壊してしまうこともある。半年前に新居のマンションで倒れた後藤由紀子さん(78歳、仮名)も、そのひとりだ。

「そもそも私がマンションに引っ越したのは、認知症を患っていた主人の病状が進行し、ひとりでは介護しきれなくなったからでした。

主人を介護施設に入れる資金として、まずは自宅を手放しました。そして定期的に主人の様子も見られるよう、バス一本で介護施設の近くまで行ける中古の分譲マンションを買ったんです。

ところが、そのマンションに住み始めてから、週に一度は自治会の定例会に参加しなければいけなくなりました。季節ごとにマンション内でのイベントもあり、持ち回りで係を担当しなければいけません。分譲マンションの住民は40代から50代の層が大半で、私よりもずっと年下。

 

そんな人たちとゼロから人間関係を築くのは想像以上に大変だし、正直に言えば煩わしい気持ちもありました。それまで住んでいた場所には、同年代の友達もいた。そのありがたさに、引っ越してから気が付いたんです」