女性の苦痛の多くは、外見に関わることだった

脱毛や肌のくすみなど、がん治療の副作用による外見の変化は、がん患者の心に想像以上にストレスを与える。その苦痛を軽減するために生まれたのが「アピアランスケア」だ。「アピアランス」とは「外見」を意味する。

国立がん研究センターに2013年『アピアランス支援センター』を立ち上げたのは、心理学博士でもあるセンター長の野澤桂子さんだ。

野澤さんらの調査では、2009年の時点ですでにがん患者の苦痛度ランキング(乳がん女性回答)は、吐き気を抜いて頭髪の脱毛が1位になっている。制吐剤などがん治療の副作用コントロールが進化したからだ。多くの抗がん剤治療が通院で行われるようになり、治療をしながら仕事を続け社会生活を送る人が増えている。患者が社会に出て人と接する。だからこそ外見の悩みが生じてくると、と野澤さんは分析する。

他にもアンケートの上位20位には、眉毛やまつ毛の脱毛も含め、6割が外見に関する悩みで占められていた。また最新の調査では、がんに罹患した人で、治療による副作用で脱毛する割合は男女合わせて全体の22%だった。

「とくに女性がん患者の悩みは、外見に関することが多いですね。社会から切り離されたと感じている人ほど、外見サポートの効果が高く、内面の変化に結びつきやすい傾向があります」(野澤さん)

はやり脱毛関連の悩みは多い。photo/iStock

外見の「アピアランスケア」が果たす意味とは

ちなみに「アピアランス支援」や「アピアランスケア」は、この言葉を考案した野澤桂子さんを中心とした医療者グループが、医療者に向けて作った言葉で、外見ケア=美容ケアと混同されがちだが、視点が違う。

「確かにがん治療による外見の変化に、苦痛を感じる人は多いです。ただ、患者さんが外見の変化を隠そうとするその先には、“家族や仲間とこれまで通りの生活がしたい”という思いがある。外見の変化によってこれまで築いてきた人間関係が変わってしまう、といった不安や苦痛が根っこあることに気づきました。たとえば、がんの手術で顔が変形した方の容姿を美容の力だけで元には戻せません。悩みが社会との関係にあるのならば、それをつなぐことを私たち医療者の理念にしようと考えたのです」(野澤さん) 

実際に外見の変化による苦痛の程度は人それぞれで、まったく苦痛に感じない人もいる。アピアランスケアは、外見が変化したことで、「治療に前向きになれない」「何もやる気が起こらない」「人に会いたくない」「職場にいづらい」など、主に治療中の社会生活に問題が起こる人を支援するものだ。

「患者さんが治療中もその人らしく生き生き過ごしてもらえるならば、外見症状の治療やケアに関する情報提供はもちろん、美容ケアも心理ケアも行います。実際、会社に復帰したときのコミュニケーション方法を指導することも、ウィッグの公的助成制度をお知らせたり、カモフラージュが難しい症状の方には美容専門家を紹介することもあります。対象も、性別や年齢は全く関係ありません」(野澤さん)

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2016年には、『がん患者に対するアピアランスケアの手引き』と言う実質ガイドラインに位置する書籍が刊行され、2018年の第3期がん対策基本計画の課題には「アピアランスケアによる生活の質(QOL)向上に向けた取り組み」という文言が組み込まれた。2018年9月の調査によると、全国にあるがん診療拠点病院の95%で、外見の相談になんらかの対応をしていると回答が得られた