抗がん剤に嫌悪感を覚えるのは、前に書いた「抗がん剤は悪である」「抗がん剤は身体に悪い」というデマや誤解のほかに、映画やドラマで描かれる、脱毛中のがん患者の姿を自分に重ねてしまう部分があるのではないだろうか。

実は私自身がそうだった。私は44歳のとき、乳がんになり、右乳房切除手術と合わせて、抗がん剤治を受けた経験がある。

医師から術後に、今後再発する可能性があるので、それを防ぐために抗がん剤などの治療を提示された。抗がん剤の説明を聞きながら、「脱毛したらきっと生活は一変する」「引きこもって社会から取り残されてしまう」と想像し、恐れおののいた。がんと告知され、乳房を失ったことだけでも精神的にキツイところに、脱毛なんてとんでもないと、抗がん剤治療を決断するまで2週間もかかってしまったのだ。

抗がん剤をした人全員が脱毛するわけではない

抗がん剤による脱毛の変化についてお伝えする前に、「がんになると必ず抗がん剤をする」といった誤解は解いておきたい。がん治療=抗がん剤、とは言い切れないのだ。

「これはおおよその概算ですが、初発のがん治療で抗がん剤をする方は全体の3~4割です。なかでも血液腫瘍は約9割と最も多く、胃がんで5~6割。乳がん、肺がん、大腸がんでそれぞれ3~4割でしょうか」と言うのは、リアルながん治療の現場を描いたドラマ『アライブ』の企画協力医でもあり、がんの最前線で腫瘍内科医として活躍する日本医科大学付属武蔵小杉病院腫瘍内科の勝俣範之医師だ。

また、抗がん剤と一口に言っても、がんの種類や状態によって複数ある薬剤の中からその人に合うものを選んでいく。さらに、その抗がん剤のすべてが脱毛を伴うわけではない。

「映画やドラマなどに出てくるがん患者さんの描写で、みんな脱毛してしまうように思われがちですが、脱毛の割合は使う抗がん剤によって異なります。脱毛だけにフォーカスすると、血液腫瘍の場合はほぼ100%。乳がんの術中(又は術後)に使う抗がん剤や卵巣がんの術後に使われる“TC療法”と呼ばれるものもほぼ100%脱毛します。胃がんの術後に使われる“TS-1”という抗がん剤は脱毛しません。大腸がんの術後に使われる抗がん剤“FOLFOX”も脱毛が少なく、肺がんに使う抗がん剤も、脱毛が少ない薬が増えています」(勝俣医師)

ドラマ『アライブ』でも20代で乳がんを罹患した女性が脱毛するシーンが描かれた。写真/フジテレビ