私はAさんにまずこう質問してみた。
「Aさんがやりたいことは何なのですか?」
すると、Aさんから返ってきた答えはこのようなものだった。
「やりたいことって何ですか」
続けてAさんはこう話してくれた。
「仕事というのは会社から与えられるものですよね。やりたいとかやりたくないではなく、やるべき義務ですよね。自分が何をやりたいかなんてことが関係あるんですか」
典型的な大企業のサラリーマン的仕事観だ。自分がやりたいことについて、このような質問をされたことも、考えたことも本当になかったのだ。正確に言うと、就職活動時にぼんやり考えたことはあるのだろうが、入社後は考える余裕もなく、会社の指示に従って真面目に働いてきたため、思考が固まってしまったと言えるかもしれない。
このままでは転職するにしても苦労することが目に浮かぶようで、私はこう話した。
「これまで懸命に会社の指示にしたがって頑張ってこられたことは尊重します。しかし、転職する際にやりたいことがないことには、進むべき方向も定まらないと思うのですが」
するとAさんは少しムッとした表情で、こう応えた。
「最近の若手を見ていて時々疑問に思うんですよ。キャリアがどうこうといって、自分のやりたいことしかやりたくないといって仕事を選ぶのってどうなのかな、て。そんなこと言い始めたら組織はまわらなくなるでしょう。だから私は権利を主張するより義務を果たすのが組織人だと思うんです」