勢力を伸ばす格安エアライン、日本への参入は実現するのか

「安いというより、便利なんですよ。それが一番の利点ですね」

 いわゆる格安エアライン(LCC)の利点は利便性における優位と、旅行ジャーナリスト・下川裕治は、まとめた。

「たとえば、タイだったらバンコク-チェンマイ間を運航しているナショナルキャリアは、だいたい現在、一日、二、三便なんですよ。ところが、LCCだと、二社でだいたい十二から十三便もあるんです」

 たしかに、四倍以上便数の差があるのならば、価格を度外視したとしても、LCCの方が、純粋に交通機関として圧倒的な優位にたっていることは否定できないことだろう。

エア・アジアのHPバンコク---チェンマイ間は約七十分のフライトで約三千三百円也

「安くて便数が多いというのが、LCCのセールス・ポイント。バンコク-チェンマイで、だいたい四千円ぐらいでしょうか」

 ただ、LCCの料金は、変動がきわめて激しいという。混み合う時には高額になるし、閑散期は、とても航空運賃とは思えないような、日本円で八百円といった水準まで下がることもあるという。

「零円、つまりただ、というのも、よくありますね」

 飛行機代がただというのは、日本人の感覚としては、にわかに信じがたい。

「基本的には、キャンペーンで無料になるのですが、メールアドレスをはじめとして、こちらは情報を提供しなければならない。私の場合、一日に三つから四つぐらい、そういうキャンペーンのメールが来ますね」

「快適な空の旅」か単なる移動手段か

 LCCであるといっても「無料」は、とてつもない事態である。

 他の交通手段にたいして、航空運賃が高い日本の常識とは、かけ離れた価格であることは間違いない。そして、この既存航空会社の作りあげてきた常識とLCCの乖離が、航空会社の未来を垣間見せてくれることもまた、間違いないだろう。

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 もともとアメリカで発足したLCCは、ヨーロッパで定着に至ったという。

「パソコンの普及ですね。ヨーロッパの人たちが、パソコンから直接、航空券を買うようになった。それが起爆剤でした」

 その点で、アジアはまだまだ、パソコンの普及率が低いと下川は云う。

 とはいえ、ヨーロッパ、アジアの主要国では、国内便については、ほとんどLCCしか残っていない。

「日本との縁は、いままでの所ないけれど、海外にいけばLCCが、まず第一の選択肢でしょうね」

 クアラルンプールとシンガポールは、LCC専用の空港を作っているという。

「アジアでは、この二ヵ所だけですけれどね、専用空港は」

 LCC同士の競争も激しい。ベトナムでは、国内便のほぼすべてをオーストラリアの航空会社、ジェットスターが運航するようになった。

「競争はかなり厳しいです。毎年、いくつものLCCが潰れていきます」

 そのため、本来ならばLCCが、切り捨てたはずの要素を、付加価値として売り物にする航空会社も出てきたという。

「クッキーを乗客に配るとか、席の幅を広げるとかして、顧客を集めようとする会社も出てきています」

 それは、最初の発想からは掛け違っているように思われないでもない。

「キャッシュ・フローは、LCCの方がいいようですね。機材にしても、LCCは新しい」

 しかしながら、その実像は従来の、航空便のイメージ、制度を裏切るものであることは、間違いない。

「『快適な空の旅を』なんて云うでしょう。キャビン・アテンダントからテレビ・コマーシャルまで。でもLCCは、全くもって、快適じゃないわけです」

 LCCでは、キャビン・アテンダントも、まったくプライドを持っていないように見える。

「黄色いTシャツかなんか着てね。コンビニよりも簡単かもしれない」

 たとえばヨーロッパでは、LCCのシェアはだいたい三〇~四〇パーセントだ。

 ルフトハンザとエールフランスも、シェアを奪われてはいるものの、ちゃんとネットワークを維持しているのだ。

「それはね、やっぱり、ちゃんとしたサービスを受けたい、という層は、いるわけでしょう」

 ヨーロッパでは、LCCの顧客は、飛行機を移動の手段として割り切る人と、「快適な空の旅」を求める層に分かれているという。

 新規参入するLCCは、他の航空会社が飛ばしていない地域に出ざるをえない。

「日本でも、LCCが普及する可能性はあると思います。外国のLCCが参入してくるかもしれない」

 日本の運賃は、高すぎる。

「国際標準だと、四時間乗って一万円というのが相場です。日本はだいたい一時間で一万円でしょう。四倍ですよ、四倍。おかしいじゃないですか。肝心なのはお役所ですよ」

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 それでは、日本に本格的LCCを作ろうという気運はないのか。

「もともと、日本の割引航空券というのは、団体旅行が基だったんですよ。発券したチケットがどうしても余る。それを転売することからはじまったわけです。安いといっても酒類や電化製品とは違いますが。

 だいたい、日本の旅行会社はサービスが良すぎるから、一度体験してしまうと、交通機関はすべてLCCという訳には、なかなかいかない」

 そもそも、日本人がLCCを購入し、旅行できるのか否かについて、下川は懐疑的だ。

「LCCは、HPでチケットを買うだけでも難しい。途中でHPが閉じてしまうのは毎度の事だし。変な罠みたいなのがあるんですよ。いろんなもの、売りつけられちゃったりして」

 行き先欄にマニラと書いてあっても、民間空港ではなく車で小一時間かかる空軍基地だったりする。日常茶飯だ。

「スカイマークが、一時、LCCを標榜していましたが、あれでも国際水準から見ればかなり高いと思いますね」

 はたして、日本にLCCが定着する日が到来するのだろうか。

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