薬学研究者がクラウドファンディング挑戦で得た「3つの驚愕」とは

「最悪の研究」を提案してみよう!
井之上 浩一 プロフィール

当然、税収が減少したり他の予算に圧迫されたりすると、研究者へ捻出されるお金は削減されていきます。

つまり、日本の科学技術関連予算は、今よりも大幅に増えることはありません。おそらく、税収や人口などとともに減少していくことでしょう。

私自身も、当然ながら国もしくは企業から研究費を獲得しているので、いつも「国や企業が好んでくれる研究は何か? そのための実験計画はどうするのか?」ということを考えていました。

つまり、生産的で成果(論文や学会発表)が出やすく、短期間(3年程度)で実験計画を立案しやすい具体性のある研究テーマ。何よりも、予算を獲得しやすいトレンドを見極める力が望まれていました。

 

一方、最悪な研究テーマは、具体性がない、効率が悪い、成果が分かり難い、長期の実験計画(10年以上)……といったものです。おそらく、日本の99%以上の研究者は同じことを考えていると思います。

でも、ちょっと待って下さい。

私たちは、そんなことを考えたうえで、研究者の道を夢見たのでしょうか。

学生時代、主任教授から具体性のない実験を指示され、効率の悪い分析装置を必死に動かして、でも成果はまったく出ず……といった形で、夜中まで研究をやり続けていました。ですがその末に、思いがけない結果を得たときの驚きと感動は大きなものでした。そんな結果を論文にまとめていたかつての私は、言ってみれば「最悪な研究テーマをやって、研究者の道へ進んでいた」のです。

夜中まで研究の日々…… Photo by iStock

今の学生たちは、効率的で生産性も高い実験において、自動化された分析装置を使って、成果の出やすいテーマをまとめています。これで将来、研究者になりたいと思ってくれるのでしょうか。私が学生なら、他の道を選びます。

ということで、最後の驚愕です。「国や企業に頼らない。ニッチなファン層を獲得すれば、最悪な研究をやっても許されること」です。

私たちの研究予算をクラウドファンディングなどの支援に頼ってみると、どうなるでしょうか。

じつは、国や企業を意識せず、生産性が悪くても、成果にならなくても、長期の実験計画でも、応援してもらえます。たとえば、万年Bクラスの野球チームを懲りずに応援し続けるのと同じです(私は長年のマリーンズファンです)。

科研費や私学助成に頼らない最悪な研究テーマを継続してみると、最悪が最良になるかもしれません。

良く考えると、今まではノートパソコンを開いて、科研費の攻略本を片手に、申請書を書くことが日常となっていました。今回、私たちはクラウドファンディングを始めたことで、支援者ときのこ狩りに出かけたり、菌類懇話会(きのこ愛好家の集まり)で話をさせていただいたりと、まったく接することがない方々とお会いできました。どんな方だと思いますか?

たとえば、自宅にPCRを購入し、遺伝子による系統分類を行っている主婦の方。ひたすらカビのインスタ映え顕微鏡写真を撮影している方。想像を超える人たちです。

そのような人たちは、決して、短期間で得られる生産的な成果など望んではいません。ゆっくりと着実に、でも、ひとつひとつ丁寧に、実験や撮影をしています。よく考えたら、私たちよりも多く研究者的センスを持っています。

そのような状況を垣間見て、本研究室も「毒きのこ」のテーマを確実にゆっくりと(本当は早く進めたいですが……)10年長期プランで進めることにしました。この「毒きのこ」に関するプランはまた別の機会にお知らせしたいと思います。

最後に、ぜひ、若手の研究者は、国や企業の枠にとらわれず、自分の興味ある研究テーマをブルーバックスアウトリーチへ提案してみてください。きっと、ニッチなファンが支援してくれると思います。

現在、新型コロナウイルスの状況で、研究現場も混乱を極めています。国も企業も新たなものに投資しにくい状況だからこそ、クラウドファンディングを1つのツールとして若い研究者を支えてくれたらと思いつつ、本コラムをまとめます。

以上が「3つの驚愕」です。普通の研究者は驚きですよね。