入居していた老人ホーム・介護施設の「経営破綻」で地獄を見た人たち

だから、自宅を売ってはいけない
週刊現代 プロフィール

新居は転倒・認知症の危険がいっぱい

「引っ越して2週間、生まれて初めてエレベーターの扉に右腕を挟まれました。閉まるスピードが思ったより早く、乗り遅れたのです。痛みが取れず病院に行くと、骨折で全治2ヵ月と告げられました」

昨年春、東京での再雇用期間を終えた井川茂さん(70歳・仮名)と妻は、息子たちが住む埼玉県に引っ越した。駅から徒歩7分ほどのマンションで利便性もよく、病院もバスで15分だ。

家を引き払うときに不要なものも処分し、コンパクトな暮らしを目指した。だがその新居で、井川さんは次々と想定外の事故に遭った。

「引っ越して最初の雨の日に、マンションのロビーで足を滑らせて転倒、頭を打って病院に運ばれました。医者からは『頭蓋内血腫になれば命にかかわる。1ヵ月後、再検査します』と言われました」

結局、大事にはいたらなかったが、雨が降るたびにあの日のトラウマがよみがえる。
危険は共用部分だけでなく、家の中にも潜む。

「夜、リビングからトイレに向かう最中、何でもない廊下で転倒したこともあります。お酒や薬を飲んでいたわけではありません。廊下の電気のスイッチがどこかわからず、手探りでよろよろ前に進んでいたら、なんでもない所でこけたのです」

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転倒時に井川さんはまたしても右腕を骨折、新しく始めた自転車整理のボランティアも辞めざるをえなかった。

 

何十年も前に建てた不便な自宅より、新しい家で便利で快適な暮らしを送りたい。定年後、そう思うのは無理もないが、井川さんが苦しんだように、不慣れな新居にはいくつもの危険がある。大阪保健医療大学の山田隆人准教授は語る。

「ちょっとした段差や階段でも、何十年住んだ家なら体が覚えています。しかし年をとってから住まいを替えると、新しい環境に体がついていかず、転倒など事故が起きるリスクが高くなります」