こうしたなか、文氏が3月1日の演説で強調したのは、国民の団結だった。文氏は「3・1独立宣言書でも、お互いを理解して共感する統合の精神を強調している」と主張。新型コロナウイルスはもちろん、日本の輸出管理措置による経済的な苦境、国際テロ、気候変動など、韓国を取り巻くありとあらゆる困難に打ち勝つため、国民の団結を訴えた。
文氏が団結を訴えている背景には、もっともな事情がある。身内からの反乱が起きているからだ。
陳重権(チン・ジュングォン)元東洋大教授による政権・与党批判が話題をさらっている。最近、韓国メディアが陳氏の発言を取り上げない日はないほどだ。陳氏は自身のフェイスブックなどを通じ、政界関係者をなで切りにしている。
これまでも陳氏の批判によって、与党の重鎮・文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が自身の選挙区を継がせようとした長男の晳均(ソッキュン)氏、文在寅政権で大統領府報道官を務めたが、不動産投機疑惑などで批判を浴びた金宜謙(キム・ウィギョム)氏は、共に総選挙出馬断念に追い込まれた。
陳氏は、18年3月の北朝鮮派遣特使団にも加わった尹建永(ユン・コニョン)前大統領府国政状況室長に対しても、一族を巡る疑惑で辞任に追い込まれた曺国(チョグク)氏の法相就任を最後まで強く主張したと批判した。
尹氏も現在、総選挙への出馬を目指して準備中だが、「文在寅氏の腹心中の腹心」と呼ばれる人物で、陳氏の痛烈な批判の影響は小さくないとみられている。陳氏が責め立てる政界関係者が次々苦境に陥っていることから、関係者は「陳重権デスノート」と呼んで、恐れている。