アパートの札付き問題児だった

チャーミングでコケティッシュなこのおばあさんは、実は私の住んでいたアパートの札付きの問題児。彼女と長く付き合っている私は、彼女がアパートの住人たちから嫌われている理由を知っている。

自己主張が強すぎて、マダム・ノウは人の意見を聞かない。自分の思い通りにならないとそっぽを向いて、非協力的で攻撃的になる。そんなわがままな人は相手にしなければいいのだが、そうはいかないのがアパートという共同住宅のめんどうなところだ。

ノートル・ダム寺院から歩いて数分というパリの真ん中にあって、300年以上たった古い建物に、300平米もある大きなアパートからトイレもない屋根裏部屋まで、全部で100世帯以上が住んでいるのだから、ひっきりなしにややこしい問題が起こる。年に数回もたれる家主組合の総会はいつも、自己中なマダム・ノウのせいで収拾がつかなくなってしまう。

2019年の春に火災で現在修理中のノートルダム寺院近く、つまりパリのど真ん中のアパルトマンにマダム・ノアは住んでいた Photo by iStock

たとえば自分はエレベーターに乗らないから、修理費は払わないという。そのままほうっておいたら壊れてしまい、今のうちに直さないと修繕費が高くなり、取り返しのつかなくなるような塀や扉の修理工事についても、マダム・ノウはする必要がないといい張る。マダム・ノウの勝手ないい分に総会は翻弄され、出席した家主たちは頭を抱えるというのが常だった。住人たちは、総会の日にマダム・ノウが風邪を引けばいいと陰口をきいていたほどである。

彼女自身、アパートの人たちに自分が疎んじられているのを知っていた。それでも私と娘は、マダム・ノウのことが好きだった。きつい性格の陰に見え隠れする、本音で生きている彼女が、私にはとてもフランス女性らしくていいと思えたからだ。