障害がある子との生活は?

その水戸川さんが、最近、出生前診断を受けた妊婦から相談を受ける機会が増えているという。

ダウン症児の母親が出生前診断の相談を受けるというシチュエーションは考えにくいかもしれないが、検査を受ける人は「病気があったら産まない」と固く決めている人ばかりではない。病気があっても産みたいと思う気持ちがある人は、その気持ちが強いほど、「障害がある子どもとの生活は一体どんなものなのか」を知りたいと切実に思う。それには、実際に育てている人の話が何よりも参考になるわけだ。

妊婦たちが水戸川さんにアクセスしてくる経路はさまざまだ。水戸川さんは日本ダウン症協会の理事であり、ダウン症の情報を求めて協会の相談電話にかけてきた人とつながることもある。

NPO法人親子の未来を支える会でもピアサポーターを務めているので、そこで相談を受けることもある。この会には、赤ちゃんに病気や障がいが見つかった時、妊娠を継続するか中断するか迷う方が、子どもに病気がある家族、妊娠を中断した人、医療者などさまざまな異なる立場の人とチャットできる「ゆりかご」というシステムがある。水戸川さんはここでも理事をつとめる。

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産まない結論も受け入れる

悩む妊婦さんにとっては、水戸川さんは本当にありがたい存在だろう。だが、筆者には、ずっと気になっていることがひとつあった。

それは「産まない結論を出す人を見る時、障害のある子を2人も育ててきた水戸川さんはつらくないのだろうか」ということだった。ずっと感じてきたこの疑問をぶつけてみると、水戸川さんは「人生は、みんな違うから」と言い、そんな気持ちにはならないという。

「私も、はじめから障害を受け容れられたわけではないもの」

彼女にも、かつては、子育てから逃げることしかできなかった日々があった――それは長女の恭子ちゃんの脳性麻痺が少しずつ明らかになっていったときのこと。今から35年前だ。当時、障害がある子どもと家族を取り巻く状況は、今よりもずっと厳しかったのだ。

水戸川真由美さんご自身が第1子を産んだ時のお話を聞いた後編「『私は一度逃げた』脳性麻痺のわが子に母親が向き合えるまで」の記事はこちら
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スタイリッシュでパワフル。その根底には、たくさんの涙も笑いも経験したからこその愛がある。講演を行った津田塾大学にて 撮影/河合蘭