夫を助けたい一心で、
藁をもつかむ思いですがった「民間療法」

【case3:夫をがんで亡くした轟浩美さん(57歳)】

轟浩美さの夫(哲也さん)は、2014年スキルス胃がんと診断された。

「医師からの“有効な治療法はありません。来年の桜は見られないと思ってください”という言葉があまりに直球で、ハンマーで頭を叩かれたような動揺がありました。理系で慎重派の夫は医師の言葉を理解し、粛々と現実を受け入れていました。ですが、夫の命をあきらめたくない私は、西洋医学の治療法がないなら、他にあるに違いない最善の方法を探し出さなくては! と思ったのです」

「とにかく夫を失うのが怖かった」という浩美さんは、すぐに図書館や書店、新聞でがんの治療法を調べまくった。すると、そこには、“がんが治った”と書かれた情報がたくさん並んでいた。

「ほら、やっぱり、治った人がいるじゃないの!と。新聞や本に書いている情報はすべて正しいと思っていましたから。身近な人からも集まった様々な情報を、1つとして欠かしてはいけないと思い、民間療法を次々と取り入れました。夫も私の気持ちをくんで、黙って受けてくれていました。ところが夫の体調は悪くなるばかりで……。

ある日、狂ったようにニンジンジュースを作り続ける私に向かって夫が、“もうやめてくれ! 目をさましてくれ! 君はだれのためにやってるんだ! 僕のことなんか見ていないじゃないか……。お願いだから、ちゃんと病気を、治療を、科学を理解してくれ!”と絞り出すような声で言ったのです」

浩美さんは、その晩泣きながら外を歩きまわり考え続けるうち、“私は一体何をしていたんだろう”と、我に返ったという。試していた療法は個人の体験談レベルのもばかりで、なのに疑いもせず、信じていた……。「当時のことは一生後悔する」と告白してくれた。

そんな浩美さんに哲也さんは、「僕が君に望むことは、いつか、僕の病気が進み、自分で判断が出来なくなった時、僕の代わりに僕の想いを考えて決断をしてほしいということ。それは、君にしかできないんだよ」と静かに語ったといいます。

轟浩美さんとご主人の哲也さん。写真/轟浩美