「新型コロナウイルス」に効く薬はあるのか?

ウイルスの構造から見えた可能性
平山 令明 プロフィール

新型コロナウイルスの薬をコンピュータで探す

2020年2月5日になって、2019-nCoVの主要なプロテアーゼのX線構造(座標)が公開された。このプロテアーゼはまさにHIVプロテアーゼと同様に、2019-nCoVのタンパク質を最終的に仕立て上げる働きを担っている。つまり、このプロテアーゼ(以下COVID-19プロテアーゼ)働きを抑えれば、2019-nCoVの増殖を抑えることが可能になる。

この研究に関する論文はまだ発表されていない。通常、論文を発表すると同時か、または論文発表後にデータは公開される。なるべく早くデータを公表して、世界の研究者たちに一日でも早く効果的な薬の開発をして欲しい、というこの研究をした研究者たちの思いが伝わってくる気がする。

COVID-19プロテアーゼの立体構造を下の図に示す。

公開されたCOVID-19プロテアーゼの構造

HIVプロテアーゼと同様に、タンパク質を切断する大きな空間がある。ここにあるヒスチジンとシステインというアミノ酸残基が鋏の刃の役割をして、タンパク質を切断する。つまり、この鋏の部分に張り付いて、鋏の働きを妨害する分子は、COVID-19プロテアーゼを阻害し、2019-nCoVの増殖を止める。

実は、公開されたCOVID-19プロテアーゼには既に阻害薬の一つであるN3と呼ばれる分子が結合し、このプロテアーゼの働きを抑えている。その様子を下に示す。

COVID-19プロテアーゼに結合したN3分子(緑)。ヒスチジンとシステインはグレー。

残念ながら、この阻害薬はまだ医薬分子としては承認されていないので、使うことはできない。そこで、現在使用されているHIVプロテアーゼ阻害薬の中に、このプロテアーゼの作用を抑えることのできるものはないかをコンピュータで解析することにした。

コンピュータで創薬を行う手法をin silico(イン・シリコ)創薬法と言う。私たちが開発したASEDockというソフトウェアとMOEという統合計算化学システムを用いて、in silico解析を行った。

具体的には、市販されている5種類のHIVプロテアーゼ阻害薬が、このプロテアーゼの働きをどの程度抑えるかをドッキング法というアルゴリズムで検証した。

その結果、ネルフィナビルとアタザナビルはかなり強くCOVID-19プロテアーゼに結合することが分かった。シミュレーションで得た、ネルフィナビル(緑色で表示)がCOVID-19プロテアーゼに結合する様子を下の図に示す。

COVID-19プロテアーゼに結合したネルフィナビル(緑)

ネルフィナビルが2019-nCoVプロテアーゼの鋏の刃であるヒスチジンとシステインの間に割り込んで、その働きを阻害できることが分かる。

もちろん、本当にネルフィナビルがこのプロテアーゼを阻害し、2019-nCoVの増殖を阻止できるかは今後実験で検証する必要があるが、コンピュータによるシミュレーションでは、HIVプロテアーゼ阻害薬は2019-nCoVの増殖を止める作用を持ち得ることが確かに確認され、新型コロナウイルス感染症治療の一つの切り札になる可能性が示された。

おそらく、世界中の関連研究者たちは同様のシミュレーションや実験のために昼夜の区別もなく研究活動を行っていることだろう。今後の展開に大きな期待が持たれる。