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「新型コロナウイルス」に効く薬はあるのか?

ウイルスの構造から見えた可能性
日本国内の各地に感染が拡大しつつある「新型コロナウイルス」。

この感染症に対して有効な治療薬はまだ報告されていないが、2月5日に公開された新型コロナウイルスのX線構造解析データを読み解くことで、このウイルスに対する薬の候補が見つけられるという。

科学者はどのようにして、新しい病気に対する薬を見つけ出そうとしているのか? その最前線を東海大学の平山令明特任教授に解説していただいた。

ウイルスの巧妙な増殖メカニズム

「新型コロナウイルス(2019-nCoV)」の増殖を止める薬として、「HIVプロテアーゼ阻害薬」が候補に挙げられている。なぜ、HIVに対して開発された薬が、新しく発生した別のウイルスに有効な薬となり得るのか?

その理由は前回の記事〈ウイルスの増殖を抑える「プロテアーゼ阻害薬」とはなにか?〉でも詳しく解説したが、「HIV」と「新型コロナウイルス」が共通して持っている増殖のメカニズムに関係がある。

私たちの体の中に入ったウイルス(HIV)は、体内のヘルパーT細胞に取り付き、その細胞をウイルスの生産工場に変えてしまう。ヘルパーT細胞がDNAの情報からタンパク質を作り出す機構を巧妙に利用するのだ。そのメカニズムを簡単に紹介しよう。

まず、ウイルスが細胞内に侵入する際には自分自身の「設計図(RNA)」に加えて、その設計図から自分自身を作り出すために必要な「職人」も細胞内に連れてくる。

最初に活躍する職人は、RNAという形で持ち込んだ設計図をDNAに翻訳する「逆転写酵素」、そして作られたDNAを細胞の核の中に送り込む「インテグラーゼ」だ。

HIVがヘルパーT細胞に取り付き増殖するメカニズム

核にウイルスが持ち込んだ設計図の情報を送り込まれた細胞は、その設計図に従って、せっせとウイルスを作るためのタンパク質を合成してしまう。

しかしつくられたタンパク質は、数珠つなぎとなって作られており、そのままではウイルスにはならない。連結したタンパク質の部品を、きちんと決まったところで、正確に切り離し、組み立てることではじめてウイルスが出来上がる。

ウイルスはその切断作業を行う職人もやはり連れてきている。これが「プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)」である。

しかし「逆転写酵素」「インテグラーゼ」「プロテアーゼ」の働きのどれか一つでも止めてしまえば、ウイルスは増殖できない。

今回の話題である「HIVプロテアーゼ阻害薬」は、このプロテアーゼがタンパク質を切るのを阻害する薬なのだ。この薬の分子は、プロテアーゼの持つ「はさみ」のような部分に入り込み、糊のような働きをして、はさみが開かないようにしてしまう。

HIVプロテアーゼの立体構造の模式図

このような分子を見つけるには、プロテアーゼ分子の形を知り、その形にぴったりと合うような分子をどうにか見つけ出す、あるいは作り出す必要がある。