「キモい」がいじめっ子と差別主義者の口グセになった「根深い原因」

私たちはこの感情を克服する必要がある
Ore Chang プロフィール

いまや「キモい」という言葉は、実際にムカムカするような吐き気や、身の毛もよだつようなおぞましさや、ゾッとするような不快感が内的に沸き立っていない場合にも、安易に用いられることが多い。

これは、若い女性が多用しがちな「カワイイ」という形容詞が、かならずしも実際にかわいいと感じているものにだけ用いられるわけではないのと同様だ。

おそらく、「キモい」(= “病気や感染を思い起こさせる対象である”)という言葉を拡張させて、一種のスティグマ(烙印)として「気に入らない他者」に向けたレッテルとして活用することで、社会的ダメージを与えたり、隔離や排除を“正当に”成し遂げられたりする「効果」がひそかに期待されているのだろう。

ひどい差別の原因にもなる

ハンセン病は、らい菌が皮膚や末梢神経に寄生することで引き起こされる感染症だ。らい菌の感染力は低く、治療法も確立されている現代では、患者が感染源となることはほぼない。

しかしハンセン病患者は、太古の昔から現代に至るまで、世界中できわめてひどい差別と迫害に晒されてきた。

わが国でも1996年まで「らい予防法」が存在した。すでに治療法が確立し、感染の恐れがないにもかかわらず、患者の終身強制隔離収容が政策として行われてきた。この法は、実質的に“患者絶滅政策”として機能していたのである。

ハンセン病差別を実行しつづけてきた一部の人々にとって、行動免疫システムが引き起こす直観はきわめて強力であり、医学的根拠をもってしてもあらがいがたいものがあったのだろう。

 

進化心理学の研究でも、外見が「主観的正常感」から逸脱しているとみなされる人びとに対し、行動免疫システムの警報が作動しやすいことが知られている。顔にニキビやあざがあったり、身体障害を持つ人、はては肥満の人々でさえ「キモい」(=病原菌保持者である)という誤警報の対象になりうる。*9

なぜ、無害で安全なはずの人びとに対して、サピエンスの行動免疫システムはこれほどまでに簡単に活性化してしまうのか。