「キモい」がいじめっ子と差別主義者の口グセになった「根深い原因」

私たちはこの感情を克服する必要がある
Ore Chang プロフィール

いじめっ子が「〇〇菌!」と囃す理由

さて、われわれサピエンスが有する「キモい」という感情システムの生物学的な意味合いについてざっと理解したところで、私たちの普段の生活でしばしば起きている、この感情が問題や軋轢を引き起こす──つまりは不適切な場面で用いられるシーンを想像してみよう。

たとえば「イジメ」は典型的な事例だろう。子どものイジメでは、ある子が触ったもの、吐いたもの、咥えたものなどに対して、「キモい!」とか「○○菌!」「○○ウイルス!」などのレッテルを貼ることがしばしば行われる。

先ほど、行動免疫システムは“病気や感染を思い起こさせるもの”に対して発動すると説明した。いじめっ子たちは、いじめられっ子に触れてしまったら「オエエエ」と言って即座に拭き取ろうとしたり、手を洗いにいったり、誰かになすりつけようとする。そういう仕草を目にした周りの子たちは、防衛的に行動免疫システムがonになるために、同じ仕草を模倣し、イジメは加速していく。

このようなイジメでは「キモい」の情動伝染が起こっている。情動伝染 (emotional contagion) とは、ヒトが集団生活を営む動物として進化してきた名残であり、「群れ反射」の一種である。

嘔吐が伝染する(誰かが吐いているシーンに遭遇すると自分も吐いてしまう)ことはよく知られているだろう。神経心理学者のロバート・プロヴァインによれば、これもヒトが進化させている群れ反射の一種であり、「群れの誰かが毒物や病原菌を検出して食物を吐き出したなら、同じモノを食べてしまった可能性が高い自分も吐いておいた方がいい」という適応である。*6

 

実際、ブルーノ・ウィッカーの研究でも、気持ち悪い臭いをかがされた被験者と、その人の表情のビデオクリップを見せられた被験者では、同じ脳領域(前部島皮質)が活性化していることが確かめられている。*7

群れ生活を営む動物にとって、「周囲の反応を手がかりに自分も同様の反応をする」というのは、ごく基本的な心理-行動設計なのだ。捕食者が出現した際などに起こる「恐怖心の伝染」はその最も原始的なかたちだが、「嫌悪感(キモい)の伝染」もかつては同じく適応的な意義を持っていた。

病原菌それ自体と同様、「キモい!」というパニックも人から人へと伝播してゆく。そして一度火がついてしまった集団ヒステリーには歯止めが効かなくなってしまう。

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翻って、だれかを「イジメたい」とか「差別したい」と思うならば、実態はどうあれ、「あいつらは病原菌やウイルスをもっている!」と叫ぶのが一番効果的な手法なのだ。それを聞くとサピエンスたちは途端に行動免疫システムを活性化させ、「この汚い連中から離れよう」「近づかないようにしよう」「排除しよう」という風に動く。