「キモい」がいじめっ子と差別主義者の口グセになった「根深い原因」

私たちはこの感情を克服する必要がある
Ore Chang プロフィール

「病原体を入れるな!」という警報

進化心理学者のマーク・シャラーは、ウイルスや病原菌や寄生虫などへの進化的な対策が「体内の免疫系」しかないのは不自然だと考えた。

そこで彼は、「生物学あるいは医学・生理学的なシステムと、心理学的なシステムは、ともに自然選択によって機能的に設計された進化の産物であり、協力して駆動する」という進化心理学の考え方から、「行動免疫システム(The Behavioral Immune System)」と呼ばれるものを提唱した。*3

行動免疫システムとは、病気を連想させるものに対してなら何にでも反応し、それを忌避する心理的なアラームのことだ。腐った食べ物の臭い、血塗れの他人の傷口、生ゴミでヌルヌルしている台所の排水溝、見知らぬ他人の体から出た分泌物、満員電車でひどく咳こんでいる人、嘔吐物、排泄物、おぞましい昆虫、死体やゾンビ……つまりは「キモい」という感情のことである。

むろん「病気を連想させる対象」が何かはヒトの経験や学習、その時々の社会的状況によっても微妙に変化するが、だからといってそれらに進化的な基礎がないとは言えない。

たとえば、遺伝的な基礎をもつヒトの脳の“言語獲得モジュール(Language Acquisition Device=LAD)”は進化の産物だが、そこへ後天的にインストールされる言語は生まれ育った国や地域によって変わる。鳥は歌のメロディや求愛ダンスを後天的に学習するが、その学習プログラムそのものは進化の産物(=先天的なもの)であり、ハードワイアード(固定)されている。「病気を連想させる対象」を「キモく」感じる、という情動反応も、あくまで先天的に進化した心のプログラムなのだ。

シャラーによる重要な発見は、この行動免疫システムによって「キモチわるさ」が心理的に賦活されると、「キモい対象」に実際に触れていなくても、あるいは病原体や寄生者が実際には体内に侵入していない状況でも、身体の免疫システム(T細胞などリンパ球の免疫系常備軍)に「非常事態警報」が発令されるというものだ。