「市中引き回しの刑」の是非

  諭旨解雇されたる友の性癖がいまもネットに曝されてゐる

昨今、薬物関連の報道が多い。国民的な人気シンガーソングライターや有名女優の逮捕は、社会に大きな衝撃を与えている。

薬物は、決して許されるべきものではない。安易に手を出してしまったら、取り返しのつかないことになる。それは、繰り返し何度も逮捕されるタレントの姿や、薬物事案の再犯率の高さから見ても明らかだ。身体、脳、仕事、プライド、家族、果ては命まで――。あらゆるものを蝕んでゆくのが薬物だろう。

つい先日も、大手報道機関の社員が薬物の所持と使用の容疑で逮捕される、というニュースに接した。記事には容疑者の氏名や勤務先はもちろんのこと、SNSから抜き出したと思われる、さわやかに笑う容疑者の顔写真も掲載されていた。

近世までは、アジアはもちろんのこと欧米においても「市中引き回し」の上で「晒し者」にするのは一定の犯罪抑止力があると信じられて来た。一部の国においては、いまだに公開処刑や公開鞭打ち刑などの身体刑が課せられている。いっぽうで「晒し者にすること」が果たして本当に抑止や予防につながっているのかと問われれば、こと薬物に関して言えば疑問符がつく。また、読者の邪推を招くような不必要かつ不正確な情報が付け加えられている場合、容疑者の更生や社会の認識に対して悪影響を与えてしまう恐れもある。

「新宿二丁目のディープなバー」

ある写真週刊誌の記事には、彼が「新宿二丁目のディープなバーにも出入りしていた」と伝聞のかたちで明記されていた。もし彼が薬物を入手あるいは使用したのが「新宿二丁目のディープなバー」なのだとしたら、記事の文脈としておかしくはない。ところが記事によれば、彼が逮捕されたのは歌舞伎町で職務質問を受けた際のことだという。つまり、新宿二丁目は関係がない。彼が「新宿二丁目のディープなバーに出入りしていた」という情報は、ニュースとして果たして必要な情報なのだろうか。

例えば、「ある人が銀座8丁目で逮捕された、その人は銀座和光に良く出入りしている人だった」と書かれていたとしたら、「ええ? 銀座和光のような高級デパートに行くような人が逮捕されちゃうことしたわけ?」とつなげて考えるだろう Photo by Getty Images

さる大手報道機関に務める社員が新宿区歌舞伎町で薬物を所持していた疑いで逮捕された。その後、尿検査によって使用も裏付けられたので、再逮捕された――。本来ならば、これで報道の内容としては充分だろう。ところが、「容疑者は新宿二丁目のディープな店に出入りしていた」という一文が入ることで、記事の印象は大きく変わる。「新宿二丁目」という場所と「薬物」が、結び付けられる。「新宿二丁目という特殊な場所に出入りするような人が薬物で捕まった」というミスリードを生じさせかねない

言うまでもないが、新宿二丁目には性的少数者向けのバーや飲食店が多くある。十年以上前の話だが、当時合法だったセックスドラッグが二丁目のゲイ向けアダルトショップなどで販売されていたことがあった。しかし、それははるか昔のことだ。かつて性的少数者たちがひっそりと身を寄せ合っていた新宿二丁目は、近年すっかりオープンでクリーンな盛り場になり、いまでは「観光バー」と言って、異性愛者のひとたちを対象とする店も増えた。オネエ言葉を話すゲイが、異性愛者向けに面白可笑しいことを言ってもてなすスタイルは、本来のゲイカルチャ―や多様な性的少数者の現実を反映しておらず、異性愛者のひとびとに「ゲイとはこういうものだ」というステロタイプな誤解を与えてしまう、という点で賛否両論がある。

僕は異性愛者の人々が、社会のなかに性的少数者がいることを知る「入口」として、そうした「観光バー」を訪れるのは決して悪いことではあるまい、と思っている。とにもかくにも、いまの新宿二丁目は性的少数者を主役としつつも、異性愛者や外国人などさまざまな人が歓迎される、安くて安全でオープンな街になりつつあるのだ。

そもそも、記事で語られている「ディープな店」の定義がよくわからない。新宿二丁目には上述したような観光バーはもちろんのこと、かなり多彩な店がある。一説には、450軒以上の性的少数者向けの店がひしめき合っていると言われている。容疑者がどのような店に出入りしていたのかは知るよしもないが、なにをもって「ディープな店」としているのかがさっぱりわからないし、なにより容疑者が二丁目に出入りしていたことと彼が薬物を所持して使用していたことに、何か関係があるのだろうか。