失業保険と財形貯蓄で未来をつかむ

ただ少しばかり良いこともあった。企業都合による失業、しかもリーマンショックという未曾有の金融危機ということもあり、勤続10年35歳以上の条件で、特例として月14万円ほどの失業保険を10ヵ月間もらうことができたのだ。

さて、ここでなにをしようか。そう思ったちょうどそのとき、ひな子さんはちょっと変わったアイデアを提案された。当時、少しでもメンタルを整えたくて、ヨガを習っていたのだが、インストラクターに「ヨガの先生になってみたら?」と勧められたのだ。

「最初はこの人、いったいなにを言っているのかとびっくりしました。当時、私は37歳だし、ヨガは趣味のレベルなんだから、これで食べていけるわけがないと思ったんです。でもせっかく失業保険をもらっていて、そのお金が生活費だけで消えるのがもったいないという気持ちもありました。失業保険でヨガインストラクターの資格を取った、と人に言えるだけでもいいやと思ったんです」

落第したら恥ずかしいからと周囲に内緒でインストラクター養成講座を受講し、約半年後、無事に合格。同時期に自宅近くで開業している医師から、医療事務の仕事を手伝ってくれないかと誘われた。昔から知っているドクターだったし、待遇は正社員で、医療事務の専門知識は病院の費用で研修を受けさせてくれるという。渡りに船のよい話だ。

「もし私に子どもがいたら、きっとこの仕事を受けたでしょうね。子育てのために安定収入は絶対に必要ですから。でも自分ひとりだけのために、あまり興味もない医療事務の仕事をするのはどうなんだろう、と思ったんです。私はヨガをやることで心が元気になって、救われたと感じていました。世の中には私のように心が辛い人がいっぱいいるだろうし、自分の好きなことで、人に役立つことをダイレクトに教えて、相手に喜んでもらうという体験がしたかった。自分が生きている実感が欲しかったんです」

かくして、ひな子さんは大胆な行動を取った。正社員の誘いを断り、ヨガを教えることを自分の仕事にしようと決めたのだ。もちろんインストラクター経験はまったくないが、彼女の背中を押してくれたのは、派遣社員時代に貯めた財形貯蓄だった。30歳くらいから約6年間かけて積み立てたものが、540万円ほどの金額になっていた。給料天引きの積み立ては地味ながら、最強の貯蓄テクなのである。

「将来への不安はあったけれど、私には財形貯蓄がある。これを全部食い尽くすまでやってみて、いよいよ貯蓄がなくなったら諦めようと決めました」

大胆な決断も、「お金」という支えがあったからだった(写真の人物は本文と関係ありません)Photo by iStock