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なかにし礼、がん再発から治療中にあえて「小説執筆」を選んだワケ

病床で書き始めた小説『夜の歌』

戦争抜きには語れない

――新著の『夜の歌』は、満洲からの引き揚げ体験から稀代のヒットメーカーとして脚光を浴び続けた日々、実兄との確執など、自らの体験に基づいた自伝的小説です。

'15年、食道近くのリンパ節にがんが再発。外科手術を経て抗がん剤治療を受けているなかで、この自らの集大成とも言える作品の執筆を開始されました。なぜあえて抗がん剤治療の最中に筆を執られたのでしょうか。

抗がん剤の投与は一日24時間、5日間にわたって絶え間なく続きます。その間は吐き気に襲われ非常に辛く、体も相当衰弱します。しかし、ベッドで横になっているのは、僕のボディです。一方で、僕の頭、つまり精神は活性化し、いろいろな想念が去来していました。

 

僕は、精神があってこその存在です。その精神が、病人であるボディという友を得た。ならば、元気な精神で、ボディを元気づけ、励ましながら、病気がよくなるような方向に刺激を与えてやることが、いまやるべきことだと考えたのです。

そのときに僕の頭に浮かんだのが、「ゴースト」という発想でした。

――昭和40年、心臓発作で倒れた日に主人公はゴーストに出会います。そのゴーストに導かれタイムトラベル。過去を行き来しながら、もう一度自らの記憶と向き合います。

ゴーストは僕の精神的な存在であり、知性です。ボディは、病み衰え今も悶えている、もう一人の自分です。この本の中では、ゴーストが病めるボディを叱咤激励しながら活性化させていきますが、不思議なもので書き進めていくと、がんが本当に消えてしまいました。

当初は病院のベッドで消灯前の1~2時間ワープロを打っていました。抗がん剤治療のため入退院を繰り返しながら書き続けていたら、完全にがんが消え、それから5年間、がんは音沙汰ありません。