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生物学最大の謎を解く世界初の「アーキア培養」はこうして成功した

奮闘2000日、確率1%以下を突破!
私たちヒトや植物を含む真核生物は、どのようにして地球上に誕生したのか──真核生物誕生は、生物学最大の謎ともいわれている。

JAMSTECの井町寛之さんと、産業技術総合研究所の延優さんは、真核生物の祖先に最も近い「アーキア」を深海底の堆積物から培養することに世界で初めて成功。顕微鏡観察や全ゲノム解析によって明らかになった細胞の構造や生理的な機能、遺伝子の特徴などから、真核生物誕生の道筋が見えてきた。

(海と地球の情報誌「Blue Earth」より作成)

「世界初」の培養

「私たちの大切な仲間です」

そういって、井町さんと延さんが紹介するのは、高さ1mほど、筒状のリアクターと呼ばれる装置だ。温度を一定に保つインキュベーターのなかに入っている。

下降流懸垂型スポンジリアクター井町寛之さん(右)と延優さん。下降流懸垂型スポンジリアクターの前で

「2006年12月、このリアクターで、深海底から採取した堆積物に含まれる微生物の培養を始めました。そして、私たちは真核生物の祖先に最も近いアーキアを世界で初めて培養することに成功し、それがどういう姿をしていて、どういう生き方をしているのかを明らかにしました。実験開始から12年。長いですよね」と井町さんは笑う。

真核生物誕生の謎に迫る

地球上に生息する生物は、アーキアとバクテリアと真核生物の3つの大きなグループに分けられている。動物や植物や菌類は真核生物である。微生物とは分類ではなく、肉眼では観察できない小さな生物の総称だ。

原生生物であるアメーバも真核生物 Photo by iStock

地球の生命の共通祖先は、約40億年前に誕生したと考えられている。これまでの研究によって、共通祖先からバクテリアとアーキアに分かれ、さらにアーキアと真核生物に分かれて進化してきたことが明らかになっている。

しかし、真核生物がどのように誕生したのかは謎に包まれたままだ。

 

真核生物は、細胞のなかに核を持ち、そこに遺伝情報が書かれたDNAが収められている。一方、アーキアとバクテリアは細胞のなかに核を持たない原核生物である。

核を持たない原核生物のアーキアから、どのようにして核を持つ真核生物が誕生したのか。それが分からないのだ。

ある種類のアーキアがバクテリアを取り込み、共生させることによって真核生物が誕生した、という仮説が広く支持されている。真核生物の細胞には、エネルギーをつくり出すミトコンドリアという小器官がある。取り込まれたバクテリアが、やがてミトコンドリアになったと考えられている。

しかし、原核生物から真核生物になる途中の、中間体のような生物は見つかっていないため、その仮説は検証できていない。

「真核生物の祖先に近いアーキアについて詳しく調べれば、真核生物の誕生について、もっとよく分かるに違いありません。だから、真核生物の祖先に近いアーキアをどうしても培養したかったのです」と井町さんは語る。

培養とゲノム解析

微生物を研究するには、大きく分けて2つの方法がある。

1つは、目的の微生物を培養して、細胞の形態、生理的な性質、生活環などを調べる方法である。もう1つは、微生物のゲノムを調べる方法だ。

ゲノムの本体であるDNAの塩基配列を読み取って、どういった遺伝子があるかを解析し、どのような機能を持っているのかを推定する。今回の研究では2つの手法を組み合わせ、培養を井町さん、ゲノム解析を延さんが担当した。

現在、ロキアーキオータと呼ばれるアーキアの一群が真核生物に最も近いと考えられている。しかし延さんは、「ロキアーキオータは2015年、深海堆積物中の微生物集団に由来するゲノムを網羅的に読み取るメタゲノムという方法で発見されました。培養されたことが一切ないため、どのような形態をしていて、どのような生き方をしているのかは分かっていませんでした」と指摘する。