わずか1年半で3店舗

会社員時代にはできなかった、こんなこと、あんなこと。「すべてやってみたい!」と、伸隆さんの勢いはとどまるところを知らない。「烏森百薬」を出した3ヵ月後に、千葉県佐倉市のニュータウンに「里山transit」を開店。場所ありきで考えたこの店のコンセプトは、「飲めるお洒落なファミレス」。先日は「烏森百薬」から歩いて15秒ほどの場所に、「百薬」2号店として「らんたん」を出店小料理屋と位置づけ、「百薬」より少し食の要素を強くした。それぞれのお店で、客単価の平均値も異なる。同じ店なのではなく、その場にあったサービスで、それを値段に反映させている。

「らんたん」は「烏森百薬」が常に満席となってしまうことで、「すぐ近くに誘導できるお店も欲しいと思っていた」という。よりゆっくりできるように掘りごたつの個室もある 撮影/杉山和行
「らんたん」の店内。Youtuberでもある杉山直美さんが店長をつとめ、ロブションから転職した大住圭シェフが腕をふるう 撮影/杉山和行

そんな伸隆さんの次から次への猛スピードに遅れをとらず、しっかりと後をついてフォローしているのが愛美さんなのだ。

ついていく。
でも意見もたくさん言う。

「彼が『こうしたい』というのを聞いて、私にできることを考えるというスタイルです。ただ、思ったことは言っていますね。いま、私が彼に言っているのは、『もし子どもが授かったらこういう働きかたをしたい』という具体的な提案です。飲食業界はどうしても夜の時間帯が中心となるので、出産してから戻りたくても戻れないという人も多い。それで『烏森百薬』は、お昼の時間に『烏森珈琲』という名でカフェ営業を始めました。そうした日中に働ける仕組みがあれば、ほかの女性たちも様々な働き方ができるはずです」(愛美さん)

「ついていく」といいながら、自分の足で立って決断している。愛美さんはそんな強さがある 撮影/杉山和行

もっとも、この「烏森珈琲」は「夜に働けない人のために始めた」ものではない。

「ランチでもきちんと儲けを出すことができると思ったから始めました。同時に、今までの仕事でどんなに優秀な人でも出産後に仕事に戻れない人が少なくない現状も見てきたので、そこで儲けを出してそこで人に働いてもらうような店を作る必要性も感じてきました。

仕事の話でどう思うとよく聞くと先ほど言いましたが、彼女の意見は、自分の働き方のことはさておき、いつも『お客様目線』なんです。僕は経営者として思ったことを言う。そこにお客様目線だと反論もある。なるほど、と思うことも多く、助かっています」

互いに信頼し尊重し合う仲ならではの、阿吽の呼吸だ。伸隆さんと愛美さんが組んで開店してから1年半。2年目で3店舗を軌道にのせたチームのパフォーマンスは、ますます向上しつつある。

互いをリスペクトし、お互いに足りないところを補うあう。結婚の理想形のような夫婦の関係が、快適なお店を作り上げる要因のひとつであることに間違いはない 撮影/杉山和行