「食のセレクトショップ」にすることで
「人」を接客にまわせる

「この店のコンセプトは、『食のセレクトショップ』。独立したとき、仲間内には料理人がいなかったんです。僕も料理はできないので、こうした状況のなかでどうしたらお客さんを満足させられるかと考えたときに、おいしいと言われる店の完成品を外注すればいい、と。ファッションの世界では当たり前のことを飲食の世界にも応用したわけです」(大久保さん)

たとえば、金賞を2回も取った店の唐揚げ。粉までつけて送ってもらえば、店では揚げるだけで済む。それならアルバイトの学生でも対応できる。メニュー約25品目のうち、店の厨房で作っているのは「ポテトサラダ」や「牛すじの味噌煮込みおでん」など定番の5品のみ。あとは全国を回って飲食店や生産者と付き合って来た伸隆さん自らが、「おいしい」と気に入ったものを取り寄せている。

手書きで書かれたメニューは、「定番」5品は変わらない 撮影/杉山和行

「飲食店って、売り上げが増えると経営者はうれしいけど、その分仕込みも増えて現場は辛くなるという矛盾があるんです。メニューを外注するというこの仕組みは、その矛盾の解決にもつながりました。売り上げが増えたら、発注を増やせばいいだけだから」

その結果、厨房の人数を少なく抑え、ホールの人数はゆとりをもたせることが可能に。より豊かで濃密なお客さんとのコミュニケーションが実現し、売り上げは順調に伸びていった。飲食店業界で「きちんと儲ける」ことは難しい。しかし、「烏森百薬」は開店してすぐに当初の予定を上回る収益を得て、黒字でスタートすることができた。伸隆さんが当初目指した「お客さんを満足させながらきちんと儲けられる」店の仕組みづくりは、ここに完成したのである。

飲食店は「人」に会いに来る

飲食店って、突き詰めると『人』なんです。みんな結局は『人』に会いに店に来る。どう考えてもそれが11年間、やってきた僕の結論なので、お客さんとのコミュニケーションは大切にしました」

意外なことに伸隆さんは、接客はそれほど得意ではない、というか好きではない。だから愛美さんには、その部分を期待した。かつて「塚田農場」天王洲アイル店で、上司と部下として働いていたことから、愛美さんのコミュニケーション能力には全幅の信頼をおいていた。実際、愛美さんはその愛らしい容姿と会う人を癒す笑顔、なによりも客一人一人に向き合う細やかなサービスでお店の人気者だった。かつてを知っている人で、いまこの店にも通うようになってくれた客もいるという。

「彼女なら、僕にない部分をカバーしてくれると思いました」

夫婦そろっての取材は初めてとのことだが、お互いに信用しあい、安心して日々過ごしていることが伝わってくる 撮影/杉山和行