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ことわざ「急がば回れ」実は旅に役立つ「豆知識」だったことが判明

迂回すべきは琵琶湖

命を落とす危険

約束の時間に遅れそうなとき、なるべく距離の短いルートで移動したら渋滞に巻き込まれ、かえって遅れてしまった、そんな経験のある人も多いだろう。

そんな時に使われることわざが「急がば回れ」だ。危険な近道をするよりも、遠回りでも安全な道を歩いたほうが早く目的地に達することができるというたとえである。

実はこのことわざ、室町時代に詠まれた歌の一部であることはご存知だろうか。詠んだのは連歌師の宗長という人物、舞台は滋賀県の琵琶湖だ。

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「もののふの 矢橋の船は速けれど 急がば回れ 瀬田の長橋」

歌にある「もののふ」は武士のこと。その昔、東国から京都へ向かう長い旅路の最中、中山道を来た者も、東海道を来た者も、滋賀県草津市の地で道は一つになり、ゴールの京都を目指して、あとひと踏ん張りをしぼり出した。

 

疲れのピークに達している旅人たちは、草津宿から大津宿までの2つのルートのうち、ひとつを選んで脚を進めた。

ひとつは「矢橋の渡し」。矢橋は、滋賀県草津市の地名で、琵琶湖の東側に位置する。室町時代にはこの矢橋から、琵琶湖の西側にある滋賀県大津市の石場まで、渡し舟が出ていたという。

もうひとつが「瀬田の唐橋」。琵琶湖の南の瀬田川にかかる全長260mの橋で、日本三大名橋のひとつにもなっている。

矢橋港から石場港まで舟で湖を渡ると約6km。距離が短く、舟に乗るため、重い荷をかついで歩かなくてもよいことから人気の道だった。一方、琵琶湖をぐるりと回って瀬田の唐橋を渡ると約12kmもある。

もちろん距離的には舟のほうが近くて早いということになるが、問題があった。冬や春になると、湖の西側にある比叡山から、比叡おろしという突風が吹き降ろし、舟が遅れたり、転覆したりする危険があったのだ。

そこで、遠回りしてでも橋を使ったほうがよいという歌が詠まれたというわけだ。実はかなり具体的な旅のアドバイスだったのである。(羽)

『週刊現代』2020年2月22・29日号より