Image by iStock

ホロコーストが現在につきつける重い命題「悪とはなにか」

第二次世界大戦末期。政府がユダヤ人から没収した財産を積んだ「黄金列車」の運行を任されることになったハンガリー大蔵省の役人の様子を、史実に基づいて描いた小説『黄金列車』が発売された。本書の読みどころを著者である佐藤亜紀さんに聞いた。

役人たちの悲喜交々

―第二次世界大戦末期、ナチスの支配下にあったハンガリー王国。ソ連軍の侵攻に備え、ユダヤ人の没収財産を国外に退避させるべく、「黄金列車」がブダペストを出発するところから物語が始まります。執筆の動機は何でしたか?

渋谷の書店の洋書売り場を歩いていて、ロナルド・W・ツヴァイグの『ホロコーストと国家の略奪 ブダペスト発「黄金列車」のゆくえ』という本を見つけたんです。

「黄金列車」って、普通名詞なんですね。体制が崩壊する時に財産を乗せて走る列車をそう呼ぶんです。ロシア革命前夜、ロマノフ家の財産を積んで西側に逃げた列車も黄金列車と呼ばれました。

で、ツヴァイグのこの本を原書でパラパラ読んだら面白かった。ホロコーストは国家公認の強盗殺人と気が付きましたし、没収財産がどうなったかだけでなく、役人たちの悲喜交々が載っていて、これを書きたいと思ったんです。

 

―「黄金列車」を指揮したユダヤ資産管理委員会のトルディ大佐をはじめ、登場人物の多くは実在人物だと、巻末の「覚書」に書かれています。

さすがに主人公やその友人らは架空の人物ですが、多くは実在です。実在の人物を小説で書くのは実は初めてで、かなり抵抗がありました。でも今回は、面白い話なので書くしかないなと。

ただ、資料を読むのは大変でしたね。たとえばイスラエルのホロコーストミュージアム文書庫から取り寄せたハンガリーの文書は、マイクロフィルムのコピーがPDFで100ページ以上あるのですが、保存状態が悪く、1日かかって1ページ読むのがやっと。死ぬほど疲れました。おかげでハンガリー語がある程度できるようになりましたが。