新型コロナウイルスで「黄色人種警報」を信じた人々の「差別の深層」

差別と偏見を駆動する「嫌悪感」の正体
Ore Chang プロフィール

たとえば熱帯地域の料理には辛いスパイスが多用されるが、たとえその本当の理由が「食材に含まれる病原菌を消毒し、自分や家族を守るため」であるということを知らなくとも、「われわれの伝統的な食文化を守ろう」という思いさえ持っていれば、病気にならずに健康でいられるのだ。

反面、そのような「神聖」や「伝統」を冒涜する者(=「まちがっている」連中)には、けっして接触したり交流をもってはならない、タブー視したり忌避すべきである、積極的に社会から排除すべきである、などのモラル観も自然と生じてきたのだろう。

 

厄介なのは、このような「われわれの文化は神聖である」とか「あいつらの文化は汚れている」といった感覚が、サピエンスの道徳心理(モラル)の一部として強固に組み込まれてしまっていることだ。現代人の理性からはまったく道徳的に誤りと感じられる「差別」や「偏見」は、過去の人類史の長きにわたって、むしろ善性や向社会性を有するものとして歓迎されてきた。*9

進化心理学者のスティーブン・ピンカーが指摘しているように、道徳心は人を殺す。それも、大量殺戮につながることがおおい。

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行動免疫システムとリンクした「神聖さ」や「清潔さ」という感覚は危険である。ルワンダの大虐殺において、フツ族の指導者がツチ族を「ゴキブリ」呼ばわりしたことは象徴的だ。あいつらは不潔だ、臭い、汚い、穢れるといったレッテルに踊らされて、人々は狂信的な迫害と殺戮に及ぶのである。

「なぜ恐れるのか」を知ることが重要

──過去から現在に目を転じて、コロナウイルスと人種差別の問題を考えよう。

日々、世界中のあちこちから、コロナウイルスに起因した差別が行われているというニュースが飛び込んできている。「黄色人種警報」はまさにその実態をあらわすのにふさわしい言葉だろう。欧米人の心の中で、行動免疫システム(「キモい」)のアラームが“異邦人”に対して鳴り響いているのである。

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