新型コロナウイルスで「黄色人種警報」を信じた人々の「差別の深層」

差別と偏見を駆動する「嫌悪感」の正体
Ore Chang プロフィール

異質なものを「悪い」と思い込む心理

進化心理学者のウィリアム・フォン・ヒッペルは、異文化への偏見が進化的に生じた背景を「疾病回避」という要因から説明する。

〈……文化的な習慣が異なる集団に出会ったとき、多くの人は自分たちの文化的・宗教的習慣に危険が及ぶのではないかと不安になる。くわえて、他者の行動そのものが、病気の伝染の新たな経路になるケースもある。たとえば調理方法、通過儀礼、配偶システムのちがいは、新たな形の病原体の暴露へとつながりかねない。人間の行動免疫システムは、そのような異質な習慣をたんにちがうとみなすのではなく、同時にまちがっているとみなすように進化してきた〉(ウィリアム・フォン・ヒッペル著、濱野大道訳『われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか──進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略/原題: The Social Leap』2000年、ハーパーコリンズジャパン)

──彼が言うように、「異文化への偏見」という問題を考える際のポイントは、サピエンスは“異質さ”というものを「たんにちがうとみなすのではなく、同時にまちがっているとみなす」ということだ。

 

人類が使うさまざまな言語を調べてみると、「間違い」だとか「誤りである」という内容を指すことば(“wrong”)には、ほとんど共通して「悪い」という意味合いが含まれている。ここから、人類は「異なるもの」を単に「違う」というだけでなく、「悪」として認知するように脳を進化させた可能性が考えられる。

サピエンスの道徳心に生物学的な基盤があることを道徳基盤理論(“The 6 Moral Foundations”) としてまとめた功績で有名なジョナサン・ハイトは、道徳に関連する6つの心理システムのうちの一つとして〈神聖/堕落〉モジュールを挙げている。*8

行動免疫システムは、汚染や感染の兆候がトリガーとなって発動し、われわれに“汚れた者を避けたい”と感じさせる。それに対置される「清潔にしたい」という心理は、「神聖さ」という感覚とリンクする。

ハイトの言うように、「堕落」=「不潔さ」を回避し、「神聖さ」=「清潔さ」をもとめる心理は、身体の接触や接近によって伝染する病原菌や寄生虫など、さまざまな脅威を避ける実際的な必要性から進化した。それがやがて、「神聖なるわれわれの文化と習俗を守れ」という文化的な領域へと拡大されていったのだろう。

編集部からのお知らせ!

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/