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米中大戦争時代に日本が“隷属国”であり続ける「厳しすぎる現実」

多極構造の世界を生き抜くために

冷戦後のアメリカ政府の一極覇権戦略は破綻した。日本周囲の三独裁国(中国・ロシア・北朝鮮)は核ミサイルを増産し、インド、イラン、サウジアラビア、トルコが勢力を拡大している。ワシントンで長年、米・中の覇権外交の現実を観察した戦略家の伊藤貫さんは、「米・中30年戦争が始まった。自助努力を怠る日本は、隷属国となる」と警鐘を鳴らす。

日本が多極構造の世界を生き抜くために、「リアリズム外交」の思考パターンが有効である。リアリズム外交のエッセンスと現在の日本外交の苦境を理解するのに最も役に立つのは、ドゴールの外交思想と国家哲学だ。ドゴールは、どんな人物だろうか?

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敗戦のトラウマ

本稿で採り上げる人物は、三回の敗戦によって自信喪失状態であったフランス国民に、「独立国フランスのアイデンティティを忘れるな!」と叱咤激励したシャルル・ドゴール将軍である。

フランスにとって1870年の普仏戦争、第一次大戦、第二次大戦は、すべて実質的な敗戦であった。二回の世界大戦において英米の参戦がなければ、フランスは隣国ドイツに叩きのめされていたからである。

この「三回連続の実質的な大敗」という屈辱は、フランス国民のアイデンティティの深いtrauma(精神的な後遺症)となった。統治者としてのドゴールが最も苦労したのは、このtraumaから生じたフランス国民のdefeatist(敗北主義者的)心理の治癒であった。

シャルル・ドゴール〔PHOTO〕gettyimages

日本の護憲左翼、親米(拝米)保守、国粋保守も、1945年の敗戦traumaから未だに抜け出せない状態である。

筆者が『歴史に残る外交三賢人』を執筆した動機も、「日本人はビスマルク、タレーラン、ドゴールという三賢人の外交思想を理解して、1945年の敗戦traumaから抜け出してほしい」と願ったからである。

敗戦後の日本の外交論壇に存在してきた護憲左翼・親米(拝米)保守・国粋保守という三つの言論グループの外交思考は、真のリアリズム外交とは無縁のものであった。

本書をお読みいただければ、「明治維新以降の日本国内の外交議論は、リアリズム外交(バランス・オブ・パワー外交)の思考パターンから外れたものだった」ということが御理解いただけるはずである。