『パラサイト』は「富裕層vs.貧困層」の映画ではなかった

どちらの家族も陥っている「現代の悪夢」
真鍋 厚 プロフィール

「水石」が象徴するもの

劇中で重要な役割を果たす、ギウの友人から手渡される大きな石「水石(すいせき)」は、キム一家が「地位財」に囚われていることを表す象徴であり、人間の表象能力に関する寓意である(劇中、ギウは何度も「象徴的だ」とひとりごちる)。

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水石は、山水景石(さんすいけいせき)とも呼ばれ、観賞用の石として富裕層が好んで飾るもので、「金運と合格運をもたらす」パワーストーンだとされる。このように単なる石ころや無機物を聖別し、独特の価値を付与する行為には、人間の表象能力、世界認識のあり方が深く関わっている。つまり「世界や社会は、どのようにでも捉え得る」ということなのだ。

たとえば雪山で遭難し極限状況に置かれても、紙幣を燃やして暖を取ることに抵抗を覚えてしまうように、わたしたちがほとんど無意識に作動させている「地位財」に基づいた行動様式を変えることは至難の業だ。「紙幣」を「ただの紙」として見ることの困難さは、「富裕層」や「貧困層」をいずれも「ひとりの人間」として見ることの困難さに通じている。

 

「地位財をめぐる軍拡競争」という人生のモデルを刷り込まれ、他者を「地位財」獲得の手段としてしか捉えられなくなる――キム一家もパク一家も、その点においては同じ陥穽に陥っている。生存主義(サバイバリズム)において本当に重要な役割を果たすのは、「地位財」よりもむしろ「非地位財」を形作る共同性や、信頼できる仲間なのだ。キム一家とパク一家は全員、「交換不可能な関係性」の欠乏に囚われている。

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