『パラサイト』は「富裕層vs.貧困層」の映画ではなかった

どちらの家族も陥っている「現代の悪夢」
真鍋 厚 プロフィール

経済学者のロバート・H・フランクは、「幸福度」のバランスを説明するために「地位財」と「非地位財」という考え方を提唱した。「地位財とは、その評価が背景にきわめて影響を受けやすい財」であり、「非地位財とは、評価に対する背景の影響が相対的に低い財をいう」*2

かみ砕いて説明すると、「地位財」の典型は「社会的な地位」であるが、そのほかにも家や車、所得や資産など物質的なもの、数値化できるものが多い。一言でいえば「他者と比較することで得られる幸福」といえる。他方「非地位財」は、健康や愛情、自由、自主性、良質な環境といった「他者との比較なしで得られる幸福」を指す。つまり前者は相対的な幸福感であり、後者は絶対的な幸福感である。

 

キム一家とパク一家は、どちらも主として地位財を前提に回るエコシステムに依存しており、要は地位財を媒介することで互いが互いを利用し合う関係にある。これがある種の寄生関係となっている。豪邸や高級車といった物質的豊かさのみならず、ステータスシンボルとしての「英語(の語学力)」や「留学(経験)」が、分かりやす過ぎるぐらい戯画的に描かれていることがそれを示している。

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フランクは、アダム・スミスのいう「見えざる手」がいま機能不全となり、現代社会が「地位財をめぐる軍拡競争」に陥っていると主張する。「私たちには地位財が多すぎる一方、非地位財が少ないということである」(前掲書)。そうなると、「地位財」を築いて守ることが最優先事項となり、まるで依存症のごとく「相対化のゲーム」に明け暮れるようになる。

こうした社会では、誰もが絶えず「他者からの評価」をあてにするため、共感よりも嫉妬がはびこり、連帯が育まれず分断が加速する。疎外感と孤立で渇ききった荒野が広がることとなる。

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