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「日本の生きる道」と有機農業の踏み誤られた歴史の第一歩

満洲報国農場と農本主義者たちの戦後
小塩 海平 プロフィール

健康の予防薬としての農業

ハワードが委員を務めた「医療における一つの誓約」では、ジョン・カー博士が誓約書を提出した後、ロバート・マッカリソン卿が医療の立場から、アルバート・ハワード卿が農業の立場から意見を述べた。

ロバート・マッカリソン卿は、当時のイギリスの食事における4つの欠点に対して警鐘を鳴らした。すなわち、①変性小麦粉の多用、②炭水化物の過剰摂取、③新鮮な緑色野菜の不足、④安全なミルクの不足と肉類の過剰摂取が、虫歯、くる病、貧血、便秘を招来し、イギリス人の健康を害しているというのである。

さらに北インドに住む人々の食事とイギリス人の一般的な食事(マーガリンを塗った白パン、缶詰肉、野菜のソーダ煮、安い缶詰ジャム、お茶、砂糖)でラットを飼育したところ、前者のラットが無病で楽しそうに仲良く暮らしたのに対し、後者のラットの多くは病気にかかって不幸になり、60日目には強い個体が弱い個体を殺してしまったと報告した。

続いて登壇したハワードは、将来、人々の健康の基礎となるのは肥沃な土壌であり、農業が予防薬の役割を果たさなければならないと述べている。

 

今こそ必要な「誓約」

私自身は、日本の農本主義者にも、欧米のアグラリアンたちにも、学ぶべき多くの点があると考えている。そして、現在の日本における有機農業に関しても、2006年に成立した「有機農業推進法」を踏まえ、それなりの成果を上げつつあることを評価している。

しかし、それだけに、いま、過去に主張された「報国農場」や「皇道農業」、「隊組織による食糧増産」や「有畜機械農業」などを改めて吟味し、将来を展望しつつ、再度、農業における誓約をなすべきときに差し掛かっているのではないかと思われてならない。

ウェンデル・ベリーは「まるごとの馬」という論考において、「現代の精神は馬の半分しか見ない。――発電機や自動車、その他いろいろな動力利用の機械は、馬を馬力の面からしか見ない精神が生み出したものである。仮にこの精神が、すべての次元を備えた、草を食べる馬に対して大きな敬意を抱いていたとしたら、馬の半分しか表していないエンジンは決して発明しなかっただろう」というアレン・テイトの言葉を引用している。

有機農業が単なるビジネスになってしまうなら、野菜は果実を実らせる道具となり、家畜は肉や卵やミルクをアウトプットする機械となり、農夫は時給でカウントされる労働力になってしまうに違いない。やがて来たるべき将来の世界をも視野に入れ、あらゆる命に対して敬意を抱き、それらを有機的に結びつける農業を確立することが、私たちに求められている課題ではないだろうか。