ドイツ政局に大嵐を巻き起こした「前代未聞の珍選挙」その顛末

カギを握るのはやはりあの「極右政党」
川口 マーン 惠美 プロフィール

ドイツの未来は五里霧中

いずれにしても、現在、小さなチューリンゲン州で散った火花が、ベルリンで猛火を引き起こしている。なぜか? おそらく、これにより、党内で長らく燻っていた「問題」が日の目に晒され、隠しおおせなくなったからだと思う。

問題とは、次のようなことだ。

 

CDUは、メルケル政権14年の間に左傾し、次期は緑の党と連立するだろうと言われるほどのリベラル党になりつつある。つまり、CDU内部は、メルケル首相を中心とした左派勢力と、保守の精神の下、AfDとも協働の可能性を探ろうとする右派勢力、もしくは、AfDにこれ以上票を奪われないため、CDUを本来の保守の党に戻そうとする勢力が、水面下でずっと対立している。簡単に言うなら、CDUは内部で右派と左派にぽっかり別れてしまっているのだ。

しかし、メルケル首相は、その対立を見て見ないふりをし続け、それどころか、少しでもAfDとの協働など口に出せば、それは民主主義を壊す動きだとして、誰も何も言い出せない空気を作った。そして、その空気が、欠陥だらけの難民政策やエネルギー政策についても、一切の議論を封じ込め、最終的にメルケル氏の権力を守ってきたといえる。

〔PHOTO〕gettyimages

現在のチューリンゲン州に話を戻せば、ここで起こったことも、まるで同じだ。左派党とAfDに議席の過半数を奪われている以上、CDUがそのどちらとも連立を組めないとなると、与党となるチャンスは最初からゼロだ。

当然のことながら、地元CDUの内部にも、左派党と組んでもいいのではないかという勢力と、AfDと組んでもいいのではないかという勢力が形成されたが、中央のCDU本部はどちらも許さなかった。「CDUは、左派党ともAfDとも協働しない」というCDUの不文律は、絶対に守られるべきということになっていたからだ。

ところが実際には、なぜかそれが機能しなかった。不文律は綻び、CDUの権威は失墜した。そして、以前より統率力を疑問視されていたクランプ−カレンバウアー氏に、その責任が覆いかぶさったのだ。彼女が辞めたくなったのは当然だ。

ただ、わからないのは、いったいメルケル首相は、何をしようとしていたのかだ。14ヵ月前、なぜ、腹心クランプ−カレンバウアー氏に、権力の伴わない党首の地位を押し付けたのか?

昨年、旧東独で3つの州議会選挙があったが、CDUが軒並み惨敗することはすでに前々から想定済みだった。その責任を回避するために、メルケル氏は事前に党首の座を降りたのか。党の内部のごたごたは、すべてクランプ−カレンバウアーに渡してしまおうとしたのか。

実際、メルケル氏はそれ以後、華やかな国際舞台を、全人類のためやら、惑星のために飛び回って今日に至っている。クランプ−カレンバウアー氏の辞任表明についても、メルケル氏のコメントは実にそっけないものだった。

そもそもメルケル氏は、いったい誰を次期首相に望んでいるのか? クランプ−カレンバウアー氏を立てるつもりだったのなら、なぜ、彼女が四苦八苦していたこの一年間、もっと助けてあげなかったのだろう。この調子では、彼女が降りた後、反メルケル勢力が首相候補として台頭してくる可能性もある。あるいは、それさえも想定済みなのか? ドイツの将来は、今、本当に見えなくなってしまった。