ドイツ政局に大嵐を巻き起こした「前代未聞の珍選挙」その顛末

カギを握るのはやはりあの「極右政党」
川口 マーン 惠美 プロフィール

メルケル首相の鶴の一声で

そのあとは、案の定、地獄の蓋を開けたような大騒ぎになった。

「FDPとCDUがナチの助けで政権を取った」、「民主主義を壊した」、「AfDの悪質な陰謀だ」と、政治家とメディアが激しい糾弾を開始。その日の午後には一部の市民までが議会前に詰めかけ、「ナチ」のAfDだけでなく、FDPとCDUにも声高に抗議の声をあげた。

 

一方、この日のFDPのリントナー党首は、「自分は何も知らなかった」と主張。そのうえ、「CDUと緑の党とともに組閣を試みたい」などと楽観的な希望を述べていた。

ところが翌日、メルケル首相が遊説先の南アフリカで、「許されない(unverzeihlich)ことが起こった。この選挙は無効にすべきだ」と発言し、形勢は一気に逆転。彼女をレイムダックという声もあるが、いつもそうであるとは限らない。

ちなみに、メルケル首相と緑の党の相性の良さはすでに有名だ。だから、ラメロウ氏が落選し、緑の党が与党に入れなくなかったことは、当然、メルケル氏の気に入らなかったはずだ。

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一方、AfDを蛇蝎のごとく嫌う主要メディアも、やはり緑の党のシンパ。そこで彼らはメルケル氏の「鶴の一声」を最大限に利用し、その結果、AfDは極悪人となり、FDPのリントナー党首の足元は崩れ、CDUのクランプ−カレンバウアー党首までが管理責任を問われる事態となった。

そして、ついにリントナー氏も、「自分たちはAfDの陰謀に落ちた」と白旗を掲げ、結局、ケメリッヒ新首相はあえなく辞任となったのである。

ただ、この動きに反発する声も、もちろんある。州議会での首相指名選挙とは、各議員個人が自分の良心に基づいて行う無記名投票で、今回起こったことは、法の間隙をついたできごとではあったかもしれないが、現行の法律には違反していない。だから、本来なら、この選挙を無効にする権限など、メルケル首相にも誰にもない。

なのに、そこらへんをうやむやにし、「モラルに反する」とか、「民主主義を壊す」という理由でひっくり返すのは、かえって民主主義を壊すことではないかという根強い意見だ。