「僕たちは個性的な物語を持っている」

ほかの受賞スピーチでも取材でも、常に茶化したことしか言わない彼ですが、さすがのオスカー受賞となると緊張しているように見えました。ニュージーランド出身で、原住民マオリの血を引く彼は、「世界中の原住民の子供たちへ、僕たちは個性的な物語を持っている。(原住民も)この場所に立つことは夢じゃないと知ってほしい」とのメッセージでスピーチを締めくくりました。マオリの少年を主役にした『BOY』(2010年の作品。監督自身が少年の父親役として出演)など10年以上前から彼の作品を見続けてきた私は、この言葉にとても感動しました。

タイカ・ワイティティ監督〔PHOTO〕Getty Images

会場を一つにした『パラサイト』

さて、今年のハイライトは何といっても、韓国映画『パラサイト』が作品賞、監督賞を含む4部門を受賞し、90年余りのアカデミー賞史を塗り替えたことでしょう。アメリカの賞であるアカデミー賞で外国語作品が作品賞を受賞するのは初めてのことで、それがアジア映画であったことは本当に素晴らしいと思います。

監督賞の受賞スピーチで、マーティン・スコセッシに手を差し伸べたポン・ジュノ監督〔PHOTO〕Getty Images

そんな『パラサイト』の監督ポン・ジュノが監督賞を受賞した時のスピーチは感動的でした。

「私が映画の勉強をしていた時、本で読んだ言葉で今も大切にしているものがあります。『最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ』という言葉です。これは、マーティン・スコセッシ監督の言葉です。私は、彼の映画を見て勉強しました。一緒に監督賞にノミネートされただけでも光栄です」

そう言って客席にいるスコセッシ監督に向けて手を差し伸べたとき、スコセッシ監督は少し涙ぐんでいるように見えました。