ゲノム編集「クリスパー」を癌の治療に応用したらどうなるか

最新臨床研究の成果が米サイエンス誌に
小林 雅一 プロフィール

CAR-Tの原理

今回、米国の共同チームによる臨床研究の対象となったのは「多発性骨髄腫」の女性患者2名と「肉腫」の男性患者1名だ。いずれの患者も年齢は60代で、「化学療法」など従来型医療による効果が見られなかったため、この臨床研究に参加することとなった。

新たな治療法のベースとなるCAR-Tでは、まず患者自身の身体からT細胞を取り出し、ここに遺伝子組み換え技術を使って外部から特殊な遺伝子を導入する。この遺伝子が「キメラ抗原受容体」と呼ばれるタンパク質をT細胞の表面に作り出す。これが特定の癌細胞を認識して結合することで、T細胞が癌細胞を攻撃することができる。

 

このように加工されたT細胞は「CAR-T細胞」と呼ばれ、白血病のような癌と戦うのに十分な数まで実験室で培養(増殖)される。これら大量のCAR-T細胞が、一種の医薬品として患者の血液中に戻され、癌細胞を攻撃して破壊する。これがキムリアの基本原理で、1回のみの投与で病気を治療できるとされる。

免疫細胞の攻撃力を高める作戦

これに対し今回、共同研究チームが開発した新たな免疫療法では、クリスパー(ゲノム編集)によってT細胞の遺伝子を直接改変することによって、その免疫力を強化することを狙う。

まず「T細胞受容体(TCR)」と呼ばれるタンパク質をT細胞の表面から消し去り、これに代わって(多発性骨髄腫や肉腫など)特定の癌を、より正確に認識する人工的なTCRを細胞表面に構築してやる。

さらにT細胞のブレーキ役を果たす「PD1」と呼ばれる受容体を破壊し、これによって癌細胞を攻撃する能力を高める。

このようにゲノム編集で大幅に改良したT細胞を実験室で増殖する。これら大量の改良済みT細胞を患者の血液中に戻してやれば、前述のような特定の難治性癌を治すことができる――これが今回の臨床研究の全体構想だ。