今の日本、寅さんだったらどう思うか…日本人が怒らなくなった理由

平成時代の「暗黙のルール」
菊池 正史 プロフィール

財務省による文書改ざんが発覚した際、今の環境相である小泉進次郎は、「安倍政権は腐敗しているか」と問われて、「権力は絶対腐敗する。全ての権力はそうなる」と喝破した。常日頃から、安倍に対しても歯に衣着せぬ発言が魅力だった小泉だが、内閣に入ったとたん静かになる。まさに優れた「順応性」という点では池松の言う「僕らの世代」の象徴なのだろう。

多くの若者は、その「順応」に抵抗を感じないようだ。貧困であろうが、格差があろうが、将来の不安が見えていようが、「忖度して、ズケズケと正論を言わない」ことが、「見えない圧力を感じている時代」を生き抜く「暗黙のルール」なのだろう

 

「見えない圧力」による矯正から脱出せよ

安倍を育てた元首相の小泉純一郎は新自由主義的な構造改革を進める際に、「改革に痛みはつきもの。その痛みに耐えて改革を進めよう」と呼びかけた。その「痛み」に人々は耐え続け、とうとう安倍政権に至って、「痛み」に慣れてしまったのだろう。

もし「痛いからやめろ!」と「出る杭」になって叫んでも、一歩間違えば、SNS上での匿名による陰湿な反撃にさらされるかもしれない。言動が少し過ぎれば、コンプライアンス社会の制裁も待っている。

「イェスマン」との闘いや、「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」というテレビドラマの台詞を地で行くような組織の論理に直面するかもしれない。公文書管理の問題などで、最後は役人の責任にして沈静化を図ろうとする今の政治を見ていれば、若者たちも、「本当にこんな組織の論理があるんだな」と実感していることだろう。

多くの若者が、大人たちが醸成してきた「見えない圧力」によって「矯正」されていくのもやむを得まい。少なからず池松は、その「見えない圧力」を自覚して、映画の世界で「圧力からの脱却」を演じて見せた。人々から、その自覚すら消えていけば、「圧力」を醸成したものたちによる、人間の「去勢」が徹底化されることになる。

あきらめの悪さが必要だ

それで良いわけがない。もちろん、嘆いてばかりでは何も改善しない。今の政治に恐ろしさを感じているという前出の橋下は、我々メディアに対して、こう叱咤している。

「メディアは『政権がおかしい、それを許す国民がおかしい』と不満を募らせるのではなく、自分たちの国民への訴えが届いていないと素直に認め、作戦を変えた方がいい」(同前)

その通りだと思う。次の世代のためにも、メディアは、新たな「作戦」を考えなければならない。橋下は常日頃から、対案を提示しないで批判ばかりする反権力のインテリやメディアを批判してきた。

かつて「寅さん」を演じた渥美は、撮影現場で山田が、何度も何度も撮り直しをするのを見て、こう言ったそうだ。

「山田さんはインテリですね」と。

「僕のどこがインテリなの?」と訊くと、

「映画の作り方がね、あきらめが悪い。それはインテリだからなんですよ」と言ったそうだ。

しかし、最後にこう付け加えたという。

「だけど、ものを作る人には、あきらめの悪さが必要ですよ

山田は、しつこく議論することや、少数意見にこだわることの大切さを「(渥美さんは)深い部分で理解している」(朝日新聞デジタル2015年8月19日)と語った。

メディアも、あきらめ悪く、政治に潜む「恐ろしさ」を語り、「作戦」を練り続けなければならない。あきらめてしまった先には、「去勢」された社会が待っているだけだ。