今の日本、寅さんだったらどう思うか…日本人が怒らなくなった理由

平成時代の「暗黙のルール」
菊池 正史 プロフィール

アベノミクスも評価は様々で、将来への影響は歴史の裁定を待たざるを得ない。非正規雇用が増え、実質賃金は上がらず、消費税率のアップで生活の負担は増し、少子高齢化にも歯止めがかからない。

多くの人が「景気回復の実感はない」と思っている。それでも安倍は「我が国は、もはや、かつての日本ではありません。(日本はもう成長することはできない)という『諦めの壁』は完全に打ち破ることができた」と堂々と叫ぶ。

 

大企業は株価上昇で喜び、内部留保を莫大にため込んでいる。そして中身はどうあれ雇用が増えたと、安倍は成果を繰り返し強調する。

そんな「やっている感」を受け入れるようになると、「腐敗の構造」や「失敗の本質」が露見したとしても、「大袈裟だ」、「たいした問題ではない」、「安倍はよくやっている」、「批判報道はフェイクだ」と、疑問すら感じなくなる。

もちろん、こうした現状の責任は野党にもある。小泉政権以降、自民党政権は1年ごとに交代するほど不安定な状態が続いた。それに対し多くの国民が怒り、民主党への政権交代を実現させた。

しかし、その民主党政権も内ゲバと、決められない体質で混乱し、国民の失望を招いた。そして、いまだ乱立状態でリーダーシップが欠如している状況だ。一方、自民党では、陰で批判しようとも、表面的には沈黙を守る議員ばかり。これでは人々が、「怒っても仕方がない」という「あきらめ」の心理に陥ることもやむを得ない。

平成時代の「暗黙のルール」とは

こうした大人社会を見ながら育ち、その大人たちに育てられた若い世代も、怒ることはない。去年「宮本から君へ」という映画が公開された。原作は漫画で、ある会社の新人営業マンが熱く愚直に仕事や恋愛に向き合い、自らの生きざまを見出していくという物語だ。その喜怒哀楽を剥き出しにして、奔放に生きる主人公を演じた俳優の池松壮亮がインタビューで次のように語っている。

平成生まれの僕らの世代は、調和を重んじて、周囲に順応して、スマートに生きることを強いられてきたように思うんです。物心ついたころから、喜怒哀楽の怒を封じられてきたような感覚があります」(「小説丸」スペシャルインタビュー)

「(「宮本から君へ」で演じた)宮本浩は、忖度を知らずズケズケと正論を言う。今の時代、自分の内面をさらけ出さないことが、社会生活の上で暗黙のルールになっているじゃないですか。その一方で(SNS上などで)うわべだけの自意識が蔓延している。みんなが見えない圧力を感じている時代」(朝日新聞2019年10月11日)