「夢の若返り薬」 今井ワシントン大学教授の「研究の大成果と素顔」

世界が注視する「抗老化」最先端研究(2)
木野 活明 プロフィール

世界中が「抗老化物質」NMNに熱い視線を

個体レベルの老化と寿命の制御に関わる3つの疑問に一定の解答が得られたことになるが、NADの量が減ることが老化につながる原因であるなら、NAD量を保つにはどうするか、ここが今回の実験の一つのポイントだった。NAD量の制御を促すNMNは、NAMPTが作り出す産物だということは以前の研究から分かっていた。

「老化して糖尿病を自然発症しているマウスにNMNを与えるとインスリンの分泌や、インスリンに対する感受性が良くなり、糖尿病が劇的に改善されることが実験で分かりました。

またマウスが老化していくと体内の色々な臓器でNAMPTによるNAD合成が落ちることを見つけたんです。それならNMNを長期に飲ませればNADの減少を回復させられる。老化を防ぐことが出来るのではないかと考えました」(今井教授)。

それならば直接NADを飲ませれば同じ効果が得られるのではないかと思い質問をすると、同じような質問をよく受けると今井教授がこう解説する。

「私たちの実験でも、NMNをどう体内に投与するかというのが大きな課題でした。NADはそのまま投与しても組織の中にはそのままでは送り込まれにくいことが実験で分かりました。物質が大きいので細胞の中に入り難く、また腸内の細菌に使われ分解されてしまうんです。

そこでNMNを飲み水に溶かして経口投与を1年間続けました。その結果、マウスがNMNの解けた水を飲むとおよそ2分半で血中にNMNが出てくると同時に、肝臓内のNAD合成量が増えることが分かったんです」

 

NMNはマウスでも人でもほぼ5分で組織の中に取り込まれて血中に入っていくという。そして30分から1時間でNAD量は顕著に増加していく、という研究結果が得られた。

そして、今井教授こう付け加える。

「NMNを投与した17カ月齢マウスと、普通の11カ月齢のマウスを比べると、酸素消費量はほぼ同じでした。つまり、NMNを飲んでいた17カ月齢のマウスは6カ月若い状態に保たれていた、ということがいえるのです」

2016年にはNMNを投与したマウスの実験でNMNが非常に顕著な抗老化作用を示すことを発表し、世界中の大ニュースになった。日本でもNHK(放映は2015年)など多くのメディアで紹介され、NMNがここから世界で大きな注目を浴びることになったのである。

NHNは、すでに国内でも商品化・市販されている。商品化などに関することは、1回目の記事に詳述している。

第1回目記事
「夢の若返り薬」 今井ワシントン大学教授の「研究の大成果と素顔」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70315

さらに、今回(2019年)のeNAMPTに関する実験結果の論文により、老化と寿命を制御するNADの存在、そしてNADの元となるNMNを合成するNAD合成系酵素eNAMPTの効果が明らかにされ、「抗老化や若返りがサイエンスフィクションではない段階となった」と、今井教授は感慨深げに語る。

ワシントン大学の研究室(左から2番目が今井教授)

日本政府も老化•寿命の研究に力を入れ始めている。

AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)で老化に関するプロジェクトを2年前から立ち上げて、今井教授もこのプロジェクトに協力している。

研究の成果は、抗老化だけではなく、糖尿病の治療、ガンの予防などにつながる可能性も高い。今後の今井教授のチームの研究に、世界中が期待している。

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