「夢の若返り薬」 今井ワシントン大学教授の「研究の大成果と素顔」

世界が注視する「抗老化」最先端研究(2)
木野 活明 プロフィール

老化と寿命のコントロールセンターは視床下部だった

今井教授はこうした成果を持ち、2001年にワシントン大学でアシスタントプロフェッサーとして独立して、NAD、長寿遺伝子サーチュインと老化寿命の制御に関する研究に本格的に取り組むことになったのである。現在、ワシントン大学の研究員は10名ほどという。

研究を始めた時、個体の老化を理解するために3つの大きな疑問があったという。

(1) 老化と寿命の制御に関わるコントロールセンターと呼ぶ重要な臓器や組織があるのではないか。
(2)その主要な臓器と組織は、他の臓器とどのように連絡を取り合っているのか。
(3)そこでどんなシグナル伝達系や制御因子が使われているか。

この3つの疑問を解決するために、哺乳類サーチュインファミリーのSIRT1の機能と、NADの産生や制御の過程を知るためのNAD合成について集中的に研究した。

2004年に解明したのが、NADの量は何重もの経路でレベルが下がらないように守られているが、その中でもNAMPTと呼ばれている酵素により制御されているNAD合成系が最も重要だということであった。

そして2007年には、NAMPTには、細胞内で働くiNAMPTと、細胞外で働くeNAMPTがあり、eNAMPTはマウスでもヒトでも、血中を巡っていることを発見したのだった。
「この研究が出発点となって、eNAMPTの酵素の働きを研究し続けた結果、今回、老化と寿命の制御に必須だということが分かったんです。私たちの体の中でNADを作るために最も需要な物質はニコチナミド、別名ビタミンB3です。このニコチナミドから出発してNMNが合成されるんです」(今井教授)。

 

2009年には、SIRT1とNAMPTによるNAD合成系の研究から、個体レベルの老化と寿命の制御を説明するための「NADワールド」仮説を発表する。

NADを作ったり(NAMPT)、使ったり(SIRT1)する酵素によるNADの代謝制御と、哺乳類の体のリズムの制御のシステムを、老化と寿命の制御へとつなぐシステムが「NADワールド」であり、抗老化作用を促す原点になっているという仮説だ。

そして、2013年には脳の奥にある視床下部が、哺乳類における老化と寿命のコントロールセンターだと証明することで、「NADワールド」が単なる仮説ではなく、体全体に渡る老化のしくみがNADワールドによって理解される、ということを証明したのである。

その後の研究からわかったのは、こういうことだ。

コントロールセンターの視床下部、そこからのシグナルを他の組織へ媒介するメディエーター(仲介役)の骨格筋、そしてコントロールセンターの機能を調整するモジュレーターとしての脂肪組織が、それぞれお互いにコミュニケーションを取り合い、老化のプロセスと寿命を制御しているということなのだ。

「わたしはこのネットワークをNADワールドと名付けました」(今井教授)。

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