ご存じですか?「チョコレート」を取り巻くおカネの“苦い現実”

「チョコカルテル」は成功するか
小出 フィッシャー 美奈 プロフィール

つまり、世界のチョコレートのサプライチェーンはピラミッド状になっていて、その源流を押さえているのが、バリー社のような「一次加工業者」なのだ。バリーに続いて2位が穀物メジャーのカーギル、3位に昨年米国のブロマー買収を完了した日本の不二製油グループが続く。

バリー社だけでも年間に生産するチョコレートの量は200万トン。「チャーリーとチョコレート工場」に出てくるウィリー・ウォンカも驚く巨大なチョコレートの海だ。

企業の投下資本の効率性を測るROIC(投下資本利益率)を見ると、バリー社のROICは10%を超えていて、非常に効率の高い事業だということが見て取れる。

 

カカオ豆投機と「チョコフィンガー」

一方、アフリカなどの生産者には、カカオ豆の値段を決める力がない。カカオ豆の値段が、石油・金属、コーヒー豆などと同様に、ニューヨークやロンドンの商品先物取引市場で決まってしまうからだ。

商品市場にはリスクを抑えようとする業者のヘッジに加え、投機の機会を伺う金融筋など多くのプレーヤーが入り乱れる。相場は天候や、将来の収穫高と商品需要、それに市場での売り買いの需給など、多くの要素によって左右される。

ある商品先物の大手ファンドがカカオ豆価格の「200年チャート」というのを掲載しているが、カカオ豆価格は実に激しい変動を繰り返してきた。

例えば1970年代には、500ドルだった価格が数年間で5700 ドルと11倍に跳ね上がり、その後、生産過剰により1000ドル付近まで激しく下落した。21世期に入って最大産地のコートジボアールが政情不安に陥ると、価格は再び1600ドル以上に急騰する。

金融投機筋にとっては、こうした激しい商品市場は、うまく波を掴めば大儲け、外せば大損失という波乱万丈の相場となる。

2010年には、英国人トレーダー、アンソニー・ウォード氏が、カカオ豆価格が上昇すると予測して、大きな賭けに出た。ウォード氏が率いるヘッジファンド「アルマジャロ」は、当時の世界生産の7%に相当する24万トン、10億ドル分のカカオ豆を先物市場で買い占めたのだ。それは、板チョコにすれば53億枚(!)という途方もない量だった。

カカオ豆相場を動かしたウォード氏は、この取引で1700万ドル(およそ20億円)の利益を手にし、ボンド映画の悪役「ゴールドフィンガー」にちなんで「チョコフィンガー」と呼ばれた。

しかし、それから10年。今の商品先物市場では、コンピューターを駆使したアルゴリズムや超高速取引が圧倒的となり、価格の動きは穀物需給などのファンダメンタルと乖離するようになってしまった。

2016年にはウォード氏がアフリカの天候と収穫量の減少を正しく見抜いたにもかかわらず、想定に反してカカオ豆価格は上昇せず、逆に下落するということが起きた。他のマクロ要因に反応したコンピューター取引に押されて、価格が下がったのだ。

カカオ豆の需給を見に行く伝統的なヘッジファンドは、やりにくくなってしまったようだ。2017年、ウォード氏のファンドはひっそりと閉鎖し、メディアからは「溶けたチョコレート」と揶揄された。