マグネシウムを燃やすと…… Photo by DukeNewport Photography / Flickr

熊本発! ボーイング社が驚愕した「燃えないマグネシウム」開発物語

固い。燃えない。腐らない。
材料研究者の夢、それは自分が開発した材料が世の中で実際に使われることです。新しい材料は産業を変え、世界を新しい未来に導きます。マグネシウムは実用金属で最も軽く資源量も豊富、けれども燃えやすく強度の弱いのが欠点です。では、燃えにくく高強度のマグネシウム合金をつくればよいのではないか。

熊本大学先進マグネシウム国際研究センターセンター長の河村能人教授は、人類に大きな福音をもたらす材料開発に挑戦し、見事成功しました。じつはマグネシウム研究に関する経験はもとより、研究設備も何もないところからスタートした河村教授に、20年に及ぶ苦難の歴史を語っていただきました。

常識を覆すマグネシウム合金の開発

──マグネシウム(Mg)は材料として優れた性質を持つと聞きました。

 

Mgの一番の特徴は、実用金属で最も軽いことです。その比重はアルミニウム(Al)の3分の2、鉄(Fe)のわずか4分の1にとどまります。資源量が豊富で海水中にも含まれているため、資源に恵まれない日本で唯一、自給可能な金属資源でもあります。

熊本大学先進マグネシウム国際研究センターセンター長河村能人教授

人体に含まれている元素なので人体との適合性がよく、医療用具への活用も可能です。融点がセ氏約650度と低いため、溶かして容易にリサイクルできるなど数多くの利点を備えています。

──それほど素晴らしい素材であれば、すでに多分野で活用されているのでしょうね。

かりにMgを自動車の構造材として使えれば、車体を軽量化でき燃費性能が良くなります。そこで世界各国が次世代の戦略材料としてMg合金の研究開発競争の真っ只中です。これが意味するのは、実用化はまだという現状です。

Mgを実用化するには次の3つの弱点、機械的強度の低さ、腐食の問題、発火しやすいことを克服しなければなりません。強度は、ジュラルミンなどの高強度Al合金の半分程度にとどまります。また腐食しやすい、つまり錆びやすいのも構造材としては致命的な欠点です。さらに発火温度が低い上に、いったん発火した場合に水をかけると水素を発生して水素爆発を起こしかねないなど危険な素材でもあります。

──逆に考えれば、それらの欠点を改良できれば画期的な材料ができるのではないでしょうか。

理屈はそのとおりで、実際に我々が開発した通常の鋳造法でつくるKUMADAI鋳造耐熱Mg合金とKUMADAI鋳造不燃Mg合金は、強度と発火温度の問題を解決しています。さらに特殊な急冷法でつくるKUMADAI急冷耐熱Mg合金は、耐食性の問題も解消しています。ただし、ここに至るまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。

急冷法と鋳造法の製造プロセス
急冷法と鋳造法の特徴

「まったくの素人」からの出発

──そもそも日本での新しいMg合金開発は、どのように始まったのですか。

1999年に文部科学省の特定領域研究プロジェクトとして新しいMg合金の研究がスタートしました。そのときのプロジェクトリーダーは、Mgの研究に取り組んだことのない若い研究者を集めて、まったく新たな視点からの研究を進めようと考えました。だから門外漢の私にも声がかかったのです。