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「死刑」を宣告した裁判官が語った「判決を読む時に考えていること」

精神を病む裁判官もいる
岩瀬 達哉 プロフィール

これまで宣告したなかでも忘れられない法廷がある。会社のカネを使い込んだあげく、発覚を防ぐため残業中の上司とビル管理人を撲殺。金庫から現金を盗んだのち、証拠隠滅のため建物に放火した男を裁いた法廷だ。

当時を回想しながら元裁判長は語った。

「根はまじめなサラリーマンが遊興におぼれ、人生の歯車を狂わせてしまった。逮捕後は犯行を悔いつつ、責任を真正面から受け止めようとする姿が立派だった」

逮捕されるまでの間、男は、北海道でひとり暮らす年老いた母親に一目会いたいと、人目をさけ山道を徒歩で数ヵ月歩き通し、群馬県の沼田から青森までたどり着いていた。しかし青函連絡船の時間待ちで入った映画館に自身の指名手配写真が貼ってあるのを見て、北海道には渡れないと観念。妻に別れの電話を掛け、家族を不幸にしたことを詫び、子供のことを頼むと伝えての出頭だった。

〔PHOTO〕iStock
 

元裁判官の回想は尽きない。

「法廷で判決文を読みながら、この被告も赤ん坊の時は夜泣きをし、母親は優しくあやしたんだろう。父親も、経済的につらい思いをしながら学校にやったに違いない。大事に育ててきた自慢の息子が、人を殺(あや)めて裁かれる。そんな日がくることを親は想像もしなかっただろうなと思うと、いかにも憐れでやりきれなかった」

単なる使い込みだけなら、数年で出所できたはずだった。その不正を申し出る勇気がなく、狂気の犯行に走った男の哀れをときどき思い出すという。

「たしかに法廷で長く審理をしていると、犯人に対しても、同情の念がわき起こることがある」と語るのは、現職のベテラン刑事裁判長だ。

「ただ、法定刑として死刑が定められている法制度のもとでは、裁判官は、その罰則の適用にあたり、最高裁が示した『死刑選択の基準』に従わざるをえない。なんとか生かしてやりたいと人情に流されて死刑回避を許せば、個々の裁判官に重刑廃止の立法権を与えることになるからです」

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